その存在に祝福を-1
ジークが自分の誕生日を知ったのは少年時代の、とある冬の日だった。
道で絡んできた少年達は、ハイスクールの制服を着ていた。
髪を染めてピアスをジャラジャラつけた彼等は道を塞ぎ、見かけないがどこの学校だよと聞いてきた。
もう大人ほどの背丈になっていたジークは、傍から見れば彼等と同じ十五・六に見えるようだ。
わざわざ本当の歳を答えるのも面倒だから、とりあえず殴り、すぐに乱闘が始まった。
裏町なら、ケンカくらい付近の住民も素知らぬ顔だが、たまたまそこは表通りだったから、通報を受けた警官たちが飛んできた。
警察に補導された回数なら、すでに両手で足りない。取調室の常連と言っても良いほどだ。
だがそれはいつだって、ジークがわざと捕まってやったのだ。
理由は、タダでメシが喰えるから。
中央西区の警官は不真面目なのが多く、欲しいのはサボリがばれない程度の逮捕実績だけだ。
取り調べもずさんで、名前を答えてメシ喰って、一時間ばかり鉄格子の中で昼寝すれば帰れる。
しかも食堂で出るメシは、なかなか美味いのだ。
しかし警察で大規模な人事異動があったらしく、先月から、ケンカ場所に駆けつける面子がガラリと変わった。
新しく来た警官達は、やたら真面目そうだったから、メシは惜しかったが、もうわざと捕まるのは止めにしていた。
そこそこ楽しい、でも何か物足りない、いつもの繰り返しだ。
だが、そこからがいつも違った。
絡んできた奴等に加え、警官も殴り倒した後、熊みたいなひげ面の退魔士おっさんが突然あらわれたのだ。
ごつい拳が唸りをあげた次の瞬間、ジークは数メートルも吹っ飛ばされたあげくに、魔獣用ロープで捕獲された。
酷いショックで呆然とし、警察の取調べ室で、ようやく我に返った。
――俺、このひげ熊に負けた……? 本気でやったのに……?
思ったとおり、今度の取調べは適当には済まされなかった。
退魔士のひげ熊おっさんは、ジークに手を焼いた警官が呼んだ助けらしく、取調べまでおっさんがする事になった。
向かいに座ったひげ熊に名前や住所を聞かれ、不貞腐れながら渋々答えたが、生年月日を聞かれて困った。
何しろ母親は、ジークの誕生日を口にしたことなど一度もなかった。
慈善学校には滅多に行かなかったが、同じ学年の奴等は十歳か十一歳らしいから、歳はそれくらいだろう。でも月日までは知らない。
そう答えたら、呆れたような顔をされた。
『困ったお袋さんだな。調べてやる』
『適当に書けばいいだろ、前はそうしてたぞ』
口を尖らせると、太い眉がしかめられた。
『ああ、そうだな。以前の調書では、年齢も十五になっているし、名前以外はめちゃくちゃだ』
そしてひげ熊は役所に電話をかけて、あれこれ聞いてから電話をきった。
『たいした偶然だな、今日だそうだ』
『は?』
『二月二十二日。今日がジーク・エスカランテの誕生日だ。十一歳、おめでとう』
『……なにがめでたいんだよ』
世間では誕生日を祝うくらい知っているが、どうもそれが理解できなかった。
単に、一つ歳をとるだけの日じゃないか。
おまけに今日は、初めてケンカで負けた日だ。
めでたくないこと、このうえない。
唯一良かったと言えば、久しぶりにジークを見た食堂のおばちゃんが、定食を特製山盛りで作ってくれたくらいか。