その存在に祝福を-7
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なるべく人目につかないよう、ジークが休憩所で観葉植物の陰に隠れていると、薄ピンクのコートを着たエメリナが、小走りにくるのが見えた。
(……本当に来やがった)
自分で呼び出しておいて何だが、驚いた。
「あ、本当に居た」
観葉植物の陰から姿を現したジークに、エメリナが目を丸くする。
――なんだかコイツと思考回路が同じような気がして、妙に腹が立つ。
「チッ……いるに決まってんだろ。そっちこそ、一人で来るとは思わなかったぜ」
ギルベルトの姿が見えないのに気づくと、エメリナは少し困ったように首をかしげた。
「先生はお出かけ中なの。でも、マルセラちゃん絡みだったら、大丈夫そうだから」
「……俺を知ったような言い方すんなよ」
見透かされているのが悔しくて唸ると、やっぱり腹黒なハーフエルフはニンマリ笑った。
「万年制服の極悪退魔士で、マルセラちゃんを大好きってことくらいしか、知らないわよ」
「っ! ただの、隣りに住む、ちょっと親しいガキだ……っ! 未来の嫁じゃねぇ!!!」
「……誰もそこまで言ってないって」
呆れた顔で言われ、顔が赤くなるのを感じる。
ぐっと息を飲み、簡単な経緯を説明した。
「――そういうわけだ。お前、誕生日にうるせぇエルフが母親なら、プレゼントにも詳しいだろ? 三年分の誕生日プレゼントに適当な服を選んで買ってきてくれ」
店を視線で指し、エメリナに財布を押し付けたが、ハーフエルフの女は動こうとしなかった。
それどころか複雑そうな顔で、ジークを見上げている。
「なんだよ。誕生日をスルーしたのが悪いって文句なら、散々言われたぜ」
「そうじゃなくて、マルセラちゃんはきっと、本気でジークをお祝いしているのに、他の人に文句言われたから、適当に何かお返しを買ってやったなんて言ったら、傷つくわよ」
「っ!?」
ギクリと硬直したジークを見て、エメリナは溜め息をついた。
「私だって社交辞令でプレゼントを渡すことも多いけど、大事な相手が生まれた記念日なら、ちゃんとお祝いしたいと思うもの」
「大事な相手が、生まれた記念日……?」
妙に乾いた声で、鸚鵡返しに聞き返した。
そんな風に考えたことなど、なかった。
「誕生日を祝うって、基本的にはそういうことよ。マルセラちゃんが、この世に存在して良かったと思うでしょ?」
「当たり前だろ!」
思わず叫んだ。
「わざわざ誕生日じゃなくたって、いつだってそう思ってる!!」
夢中で怒鳴り、周囲の注目を思い切り集めていることに、やっと気づいた。半端にとがった耳を押さえていたエメリナが、ニヤニヤしている。
「マルセラちゃんの事になると、いちいち声がでかいわよ。私のこと、言えないじゃない」
「……っ、わかったよ。いやはや、確かに大事な日だな」
顔をしかめ、ポケットに手を突っ込んだ。クッキーに添えられていたメッセージカードが指先に触れる。
マルセラは、ジークがこの世に生まれて存在していることを、毎年祝ってくれていたのか。
「うん、だからとびきりの誕生日プレゼントを選びに行こうよ」
エメリナが今度は嬉しそうに笑う。そして、ひょいと首を傾け、例の子ども服店を眺めた。
「お店に入りづらいなら、一緒に行ってあげる」
「げっ! 俺も行かなきゃだめかよ!?」
「あのねぇ。プレゼントに服を選ぶって、けっこう難しいのよ? 相手の好みとかサイズとか……マルセラちゃんの身長って、このくらいだっけ?」
そう言うと、エメリナは自分の手で胸の高さを示した。
「そうだな。それから体重は多分、お前の半分より……」
エメリナの体重なら、部屋で担ぎ上げた時にだいたい知っているから、解りやすく答えてやったのに……。
「さ、最悪!!」
エメリナは顔を真っ赤にして、きびすを返す。
「あ!? ちょ、おいこら、待ちやがれ!」
逃げ去ろうとしたエメリナを捕獲し、小脇に抱えあげた。
「ん? お前、あれから少し重くなっただろ。マルセラはこの半分から、差し引き……」
「い、言わないでよ、バカぁぁーーっっ!! だいたいの体型でいいんだって!!」