その存在に祝福を-3
――そして月日は経ち、ジークは今日で二十ニ歳だ。
未だに誕生日は、特に嬉しい日ではない。他の連中が、ありがたがるのも理解できない。
今日も普段と変わらず、魔獣と戦うのに血をたぎらす。
本日の相手は『首吊り樹』と呼ばれるものだった。植物だが、魔獣と同じく退魔士の駆除対象となっている。
一見はただの枯れ木に見えるが、自在に動く枝で近づくものを捕獲し、絞め殺してから養分を吸い取るのだ。捕われ養分を吸い取られる獲物は、枝から首吊り死体のように下がっていることから、その名がついた。
また、自分で根を動かし移動が可能であり、普段は森の奥にしかいないが、獲物が少なくなると人里に来ることもある。
民家の排水溝から動く樹の枝が伸びてきたと通報があり、巨大な首吊り樹が下水道に住み着いていたのを発見したのだ。
「ジーク! 根元を斬れ!」
鞭のように襲い来る樹の枝を掴み、隊長が怒鳴った。他の隊員たちも、下水道の中を縦横している枝に苦戦している。
大小の枝には干からびた小動物の死骸が多数ぶらさがり、余計に不気味さを増していた。
「了解!」
ジークは水しぶきをあげ、跳躍する。払い除けようとした枝をチェーンソーでなぎ払い、太い根もとに斬りつけた。
口のように見える幹の亀裂から、悲鳴のような酷い声があがった。血は流れなかったが、盛大に撒き散る細かな木屑がゴーグルの視界を塞ぐ。
首を振って木屑を払い、切断部を蹴り飛ばすと、首吊り樹はぐらりとかしぎ、派手な水音と共に倒れた。
薄赤い年輪の刻まれた断面がビクビク何度か痙攣したあとで、動きを完全にとめる。
「――前から、変な音が聞こえる気がしてたのよ。まさか首吊り樹がいたなんて」
浴室で襲われそうになったという中年主婦が、胸を撫で下ろした。
「もう他には見当たりませんでしたので、ご安心ください」
「ええ……ホッとしました。ありがとうございます」
主婦は運び出された樹の残骸にチラリと視線をむけ、すぐおぞましそうに逸らした。
「ああ怖い。あんなもの、さっさと枯れて……いいえ、最初から生えなければ良いんだわ」
まだ青ざめている主婦を隊長が宥める後ろで、ジークは薄く笑った。
首吊り樹だって、別に悪気があって動物を喰らっていたわけじゃない。喰わなきゃ死ぬのは当然で、人間が魚や豚を食うのと同じだ。
それでも人間の理屈では、魔獣は産まれること事体が罪だ。
そしてそれを非難する気もない。
自分はその理屈に乗じて魔獣を殺して金を稼ぎ、メシを喰って生きているのだから。
誰だって産まれる時に、場所も種族も条件も選べない。
それでも産まれてしまったものは仕方ないから、どんなに疎まれようと、勝ち抜いて生き残るしかないのだ。