投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 63 大陸各地の小さな話 65 大陸各地の小さな話の最後へ

ラインダースの系譜-4


「列車を知らないのか?」

「知らない。それにラインダースって、家名か? 人狼のくせに、人間みたいだな」

 ちょっと小バカにするような口調だった。
 そういえば、はるか昔の純粋な人狼たちは、家名というものを持たなかったそうだと、古文書の資料を思い出す。
 どうもこの少年は、完全に昔の時代の生活様式で生きているようだ。ギルベルトは内心で頷き、話をあわせた。

「ああ。正体を隠して、人間の中で暮らしているから」

「へぇ……人間の中で暮らすなんて、窮屈そうだな」

 少年狼は、夜空の細い月をみあげた。

「とにかく今日は月が細くて良かった。昔の人狼たちは、部族同士で満月夜の決闘祭をやってたんだろ? 満月なら、俺たちも戦ってただろうな」

「そうだな」

 ギルベルトが頷くと、少年狼は悲しそうな顔をした。

「俺も人狼だから、決闘祭には憧れるよ。でも、発作は酷くなるばっかりだし、人狼はこんなに少なくなったんだ。少しは我慢しなきゃ、本当に絶滅しちまうもんな……」

「……発作?」

 奇妙な発言ばかりする少年狼は、ギルベルトの怪訝そうな顔を眺め、不意に懐っこい笑みを浮べた。

「なんか、ギルベルトとは初対面って感じがしないや。俺と毛並みや顔が似てるからかな?」

「ああ……確かに君は、俺の子どもの頃に似てる」

「あ、そうそう、俺の名前がまだだっけ。ルーディって言うんだ」

 告げられた名に、ドキリと心臓が高鳴った。それほど珍しい名前ではない。だが……

「ルーディ……」

 不意に、突拍子もない考えが浮かぶ。声が震えそうになるのを押さえ、慎重に尋ねた。

「今のフロッケンベルク国王の名を、知っているか?」

「ん? 確かヴェルナーってヤツだろ。十四で即位した、まだ若い王だよな」

 数百年も昔の国王の名を、きっぱりとルーディは答えた。

「もしかして君は、五人兄弟の末っ子で、長兄はヴァリオという名の黒い人狼か?」

「なんで知ってんだ?」

 琥珀色の両眼を大きく見開き、ルーディが……ギルベルトの祖先であるはずの人狼が尋ねる。

(まさか、こんなことが……)

 昔から変わらぬ雪景色の中で、自分とルーディのどちらが時代を飛び越えてしまったのか、判別できない。

「ルーディ!」

 突然、森の奥からルーディを呼ぶ人狼の吼え声がした。

「あ、ヴァリオ兄さん!」

「知らない匂いがするが、誰と話している?」

「あのさ! 滅んだ人狼部族の生き残りが……」

 急いでルーディはギルベルトに向き直り、早口で告げた。

「ヴァリオ兄さんで良かった。優しいし頭もいいから、他部族の人狼だからって、殺そうとしないはずだよ。俺の自慢の兄さんだ」

「……いずれは、族長の座を決めるため、ヴァリオと殺し合いをするのに?」

 掠れた声で尋ねるギルベルトに、ルーディはまた驚いた顔を向けた。

「俺たちが族長の息子なのも知ってるんだな。うん……もし父さんが死んだら、慣わし通り、俺は兄さん達と戦う。ヴァリオ兄さんは一番の強敵だな」

 そしてルーディは嬉しそうに目を細める。

「でも、俺だって全力で戦う。死力を尽くした決闘なら、どんな結果でも悔いはないよ。それが人狼だろう?」

「そう……だな……」

 それ以上、何も言えなくなってしまった。
 ジークとの死闘を思い出す。

 人狼というものは、まったく……こんな刹那的な生き方しかできない好戦な種族など、滅びてしまうはずだ。

「俺は人狼に産まれたことを、誇りに思うよ」

 満面の笑みでルーディが言った途端、突然に強い風が吹いた。
 雪原の表面に積もっていた雪が舞い散り、視界をぼやけさせる。



大陸各地の小さな話の最初へ 大陸各地の小さな話 63 大陸各地の小さな話 65 大陸各地の小さな話の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前