遠いこの街で-13
「高校出たら一緒に住もうって…バイトしてお金貯めて…生活費も家賃も何もかも出すって。」
また涙が溢れてきた。
「あんたはバイトして少しずつ出していってくれればいいって。私は…外に出てもまた、人に迷惑かけるから…。」
「恩着せがましい恩返しだな。オレならいらないわ。」
冷静な声が私の心も一気に冷やしていった。今までで一番、冷たい言葉。
「金払われても、シスターになられても嬉しくねぇし、あんた最低だな。被害妄想。悲劇のヒロインぶってる自分に酔ってんじゃねぇの?」
「…なんで…そんな事言うんですか?私っ!」
「そのシスター、何年か育ててきてくれたんなら親同然だろ?子供が今までの教育費返しますって金出したらオレなら殴るね。」
宮田さんはベンチから立ち上がり、カバンを手にして帰り支度をしながら私に話続ける。私はただ黙って聞いているしかなかった。
「帰る。あんたと話してるとムカついてきた、じゃあな。」
私の顔も反応も見る事無く、宮田さんは去ってしまった。
涙は出なかった。
今の自分の状況が辛くて辛くて、周りの優しさが辛くて、まだ近くない、少し離れた宮田さんに甘えようとしていた。
そして、それを見透かされた気がした。私はあの人を利用しようとしていた。
「じゃあな。じゃねぇ!この馬鹿野郎が!ばかちんめ!なんてこと言いやがんだ、てめぇは!!」
電話越しにタケのけたたましい声が響く。さっきおきた出来事を事細かに説明した矢先の第一声がこれだった。耳鳴りがして電話を耳から離すとまた抗議の叫びが聞こえてきた。
「聞いてんのかっヒロ!」
「聞いてるって。あまりに腹が立ったもんで、つい。」
「ついじゃねぇ!もう少し優しくしろっつっただろ!めちゃめちゃ彼女傷つけたぞ、お前!」
タケの怒りの抗議にヒロは何も反論しなくなった。それでもタケの勢いは止まらない。
「あの子の生い立ちも事情もよく知らねぇだろ?もしあの子の施設が運営難だったらどうする?強制的にシスターにならそうとする奴がいたら?お前そういう事も考えて言ったか!?」
部屋の中で壁に頭を預けて考えた。ヒロの家庭は一般的で、幼少からの生活に施設育ちの人間との関わりはなかった。テレビやドラマでしか知らない世界、どんな所かもどういう生活かも、どんな背景かも何も分からない。
ヒロに彼女の気持ちが一切分かるはずもなかった。
「ヒロ、人には色々事情があるんだって…。」
最後のタケの声は優しかった。ヒロは考えた挙げ句、一つの答えを出した。