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遠いこの街で
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遠いこの街で-12

「別に…私は何も…。」

そう言ったきり彼女はうつむいて黙ってしまった。何もないと言われたら仕方がない。

「あ、そ。じゃあオレはこれで。」

ベンチから立ち上がり歩きだした瞬間、彼女が引き止めるような声を出した。

「迷惑ならもうかかってる、どっちだ!?」

ハッキリしない態度にいらついたのか、思うより強い言葉が出でしまった。だが彼女は負ける事無く、今の気持ちを振り絞るような声で叫んだ。

「分からないんです!」

オレも彼女も立ち尽くしたまま、風が通り抜けた。
彼女の悲痛な叫びが公園に響き渡る。日は高い位置から下がりつつあった。


「全てに挟まれて、もう何が何だか…分からないんです。涼子ちゃんにはこれ以上迷惑かけたくないのに…私には進学も何も、道は一つしかないんです。だってこれしか見つからない!わたしにはこれぐらいのことしか…他に恩返しなんて、私にはこれしかできない!お金なんて払えない…私…。」

今までため込んでいた自分の気持ちを、この時私は吐き出してしまった。

宮田さんには、きっと何が何だか分からないだろうけど、私の言葉が途切れるまで聞いてくれた。そして、諭すように問う。

「誰に?そんなに切羽つまって、坪井さんは一体誰に恩返しするの。おかしくない?」

その宮田さんの言葉は私の心にささり、たちまち涙が溢れてきた。もちろん、気持ちも一緒に溢れてきた。

「私…私はっシスターに…。今まで私を育ててきてくれたシスターに恩返しを。」

私が施設育ちなんて宮田さんは知らないけど、そんなのお構いなしに私は叫ぶように言葉を続けた。

「だから…私、シスターになろうって。」

「なんだソレ。」

この状況に効果音つけるとしたら、

すこーん

が一番似合っていると思う。溢れて止まらない私の涙を一瞬で止めたのは、宮田さんの呆れたように出した感想だった。

うつむいていた顔も思わずあげて宮田さんをみた。
「どう関係あんの?シスターに育てられたからシスターになるってのは。」

単純に納得できないという顔で疑問を投げ付けてきた。怒るわけでもなく、でもやっぱり呆れ気味だったかもしれない。

「だって今までの生活費とか返せられないし、だったら施設に残ってシスターになって手伝った方が…」

「は?泣くくらい嫌なのに?」

「嫌なんて…っ!」

「泣いてんじゃん。」

「だって涼子ちゃんが!」

子供がただをこねるみたいに私は叫んでいた。頭の中には涼子ちゃんの姿があった。


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