遠いこの街で-11
「お前いつもあんな感じで話してんの?女の子にはさ、もっと優しくしなきゃダメだろ。」
「うるせぇ、いくぞ!」
「いいのか?千夏ちゃん、お前に用があったんじゃねぇの?」
それはオレも感じていたこと。タケはオレの言葉を待たずに続ける。
「あの子…なんか気になるな。別に好きとか可愛いからとかじゃなく…ヒロ?」
あまりに考えこんでたせいか、オレの足は止まってしまった。
「悪い、オレ今日やめとくわ。」
「千夏ちゃんを追い掛けんのか?」
「いや…気分じゃなくなった。」
後向きに手を振りその場をあとにした。タケに言ったとおり、坪井千夏を追うわけでもなく雑踏の中を歩き始めた。
「ねぇ涼子ちゃん…私最低だわ。」
「千夏?」
「私…宮田さんを利用しようとしてた。私…。」
「千夏…泣いてるの?」
「ごめん、私公園寄ってくからここで。」
「あ…うん、気を付けて…ね…。」
「ありがとう、じゃあ。」
今日は晴れて、風が少し冷たさを感じさせる日だった。
いつものように煙草をふかし、いつものように噴水の前のベンチに腰掛ける。
煙草の煙は風にのり、勢い良く横に流れたかと思えばゆっくりと上に立ち上る。二口目を深く吸い込み吐き出したとき、目の端に見慣れた制服姿があった。
知っていたわけじゃない、そんな気がしたわけでもない、ただここでくつろぎたかった。何も考えなくても緩やかに時間がすぎていく、そんなこの心地よい空間を求めただけ。
彼女もそうなのだろうか?ただやすらぎを求めただけ?
それでもオレたちは出会ってしまった。必然みたいに、またこの公園で。
「あっ…。」
オレを見付け驚いて口に手を当てる。表にはでないがオレだって驚いている。なんでここに?くらいは考えていた。
でも出た言葉は不満に近いものだった。別に機嫌が悪いわけじゃなかったのに、なぜだかそうなってしまった。
「用はなに?」
「え…?」
「オレになんか用あったんだろ?」
あの時の彼女の顔は今でも忘れられない。張り詰めていたものが切れていく瞬間だった。