2つのモンスター-4
喜多は相変わらずいやらしい視線を向けながら言った。
「で、何の用だよ?何か目的あんだろ?わざわざ憎たらしい俺の顔を見にきた訳だしな?」
どうせ何も教えてやらないよ的なそんな顔だ。特に質問は用意してこなかった静香の方が戸惑った。そんな静香を見て喜多の方が話し始めた。
「おまえは大事な上司を殺されて悔しいかも知れないが、高田はどうなる?高田を殺されて悔しがる、悲しがる人間の事をおまえは考えた事はあるか?自分の事で精一杯でそんな事考えた事ないだろう?」
「…」
言われた通りだ。今まで高田を悲しむ人間の事など考えた事はなかった。頭をハンマーで殴られたぐらいの衝撃を受けた。
「おまえは俺が憎いだろう?憎いよな?いつになっても憎しみは消えないだろう?でも忘れるな?高田を失っておまえを憎んでる人間もいるって事を、な?同じように憎しみは消える事はない。今でもおまえを憎み続けている人間がいるって事を忘れんなよ?俺もおまえも変わらない。人殺しだ。」
人殺し…、その言葉が胸に突き刺さる。
「おまえはいいよな?部下をかばった素晴らしい上司って話で美化されてんもんな。でもこっちはどうだ?家族親戚は殺人者の一家として世間から隠れて生きて行かなきゃならないんだ。高田の一家も同じだ。何とか会社は踏ん張っているが、家族に犯罪者がいたって事で未だに苦しませられている。憎しみはこっちの方が強いぜ?だいたいおまえが銃なんて抜かなければ血は流れなかったんだからなぁ!!」
「…」
打ちのめされる静香。そんな静香を気分良く見つめる喜多。
「俺がもし出所したら真っ先にレイプしてやっかんなー!マンコ濡らして待ってろよ!?」
見かねた職員が面会を終了させた。
「あー、ヤリテェなぁ、美人な刑事さんと!ヒヒヒ!」
大声で叫びながら喜多は連れていかれた。
予想以上に気持ちをどん底に落とされてしまった静香。元気なく刑務所を後にした。
「まだまだ甘いか…、私は…。」
ショックだったのは自分が高田の残された家族の気持ちを全然考えていなかった事だ。情けなく思った。しかし喜多の言葉を一つ一つ受け入れていくと見えなかった事が見えて来たような気がした。
静香は上を向く。もう下は向かないと決めたから。