旅-3
女の足元には先ほどまで女が纏っていたスカートが落ちている。落ちた時に舞った風のおかげで女の周りだけ埃が吹き飛ばされ、少しだけ綺麗に見える。
女を愛でる為のステージが用意された様に感じた。
勝手にスイッチが入ってしまった。
『これは夢だ』
いつもの夢とは違い意識がしっかりとしている。触覚も嗅覚も視覚も聴覚にもよどみがない。
味覚はどうだ…。
口の中の舌を動かしてみたが味を感じない。それもそうだカラカラに乾いてしまって滑らかに動かない程になっている。
『これは夢だ』
もう一度頭の中で繰り返した。
私は女の顎を掴み口を開いた。夕陽が女の口の中に侵入し、艶やかな潤いのある内部が見えた。親指を舌の下に挿入しさらに開いた。親指の先に潤いを感じると同時に、自分の口の中にも潤いが戻ってきた。
まるで女の潤いを親指が吸い上げたように思えた。どんどんと私の口の中は潤う。味覚の確認はまだ確信が持てない。
女の瞳に視線を移すと…
女は私の目を強く見つめていた。
私にはそれが睨みなのか哀れみなのか同情なのか全くわからなかったが、視線が合ってしまったことが咄嗟に怖くなり、強く握ったこぶしで女のこめかみを殴打してしまった。