家族-6
後日、二つの葬儀が行われた。仲間をかばって命を落とした英雄と、社会の悪の死。対照的であった。
正芳の葬儀には警察関係者を始め報道陣他、多くの参列者の姿があった。犯人を射殺したという物議を醸している静香には参列を自粛した方がいいと上司から提言があったが、静香はそれを拒否した。どうしても正芳にお詫びとお別れがしたかったからだ。静香は後に彼氏となる角田俊介という同僚の刑事に付き添われ葬儀へ参列した。
俊介の運転で葬儀場に到着した静香。車から降りようとするが足が動かない。それは自分への非難を投げかけるであろう報道陣が怖いわけではない。正芳の亡骸に対面する勇気がないわけでもない。静香は正芳の残された家族と顔を合わせるのが怖かった。
「さ、行こうか。」
「はい…。」
俊介に体を支えられ車を降り歩き始める。静香の姿を見つけた報道陣が駆け寄ってきた。
「あなたが犯人を射殺した刑事ですか??」
「犯人より先に発砲したとの情報がありますが、事実ですか?」
「上原刑事に発砲した犯人はあなたが射殺した犯人とは別だと言う事ですが…」
次々と浴びせられる言葉に静香は体を小さくして目を閉じ俯く。
「今お話できる事は何もありません!通して下さい!」
静香をかくまい前へ進む俊介。
「捜査に問題はありませんでしたか!?」
「ですから調査中です!」
報道陣をかいくぐり葬儀場に向かう。報道陣は途中で警備員に足止めされた。
「気にするな。」
「はい…」
中へ入ると数人の刑事が静香の周りを固める。顔を上げればもう正芳の遺影がある。静香は震えながらゆっくりと顔を上げる。
「…」
静香の瞳に正芳の妻の姿が映る。そしてまだ小さい子供の姿…。体が震えてきた。しかしその震えも止まる程に心が痛む光景を目にした。正芳の棺桶に抱き付いて離れない高校生の娘、上原若菜の姿…。静香の体の細胞の全てが張り裂けそうだった。
「お父さん…お父さん…」
涙と鼻水に阻まれた微かな声。若菜はずっと呟きながら棺桶に抱き付いて離れなかった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
静香は泣き崩れた。もう全ての気力を失った。胸が、体が張り裂けそうだった。涙で何も見えない。嗚咽で何も言葉が出せない。刑事達はこれ以上無理と判断し静香の体を支え警備員に報道陣を制止させ車に載せた。
「上原さん…ごめんなさい…ごめんなさい…うわぁぁん!!」
髪の毛をかきむしり泣き叫びながら会場を後にした。