狐の祠-3
健太郎と春菜、夏輝はテントに戻った。
修平はテントの入り口に座って、熱心に一枚の紙を見ていた。
「起きたんだ、修平も」
修平は顔を上げて夏輝を見た。「ん」
「何? その紙」
「つい今しがた、管理人のじいさんがやって来てよ、これ渡し忘れてた、って言って置いてった」
「その紙だけ?」
「これも」修平は自分の横に置いてあった籠を持ち上げた。
「野菜?」
「トマトだろ、キュウリだろ、トウモロコシだろ、」修平は中に入っていたものを一つずつ手に取りながら言った。
「って、元気じゃん。あのおじいさん」
「だよな」健太郎だった。「歩いて小一時間かかる山道を登ってきたんだろ?」
「それに、そのたくさんの野菜も?」春菜も驚いた表情で言った。
「『うぇるかむ・べじたぶる』なんだとよ」
「百円の利用料じゃ釣り合わないね」夏輝が少し困惑したように肩をすくめた。
「そうそう、その紙にも書いてあっけど、森に入って少し登ったとこに露天風呂があるらしいぜ」
「ほんとに?!」春菜が大声を出した。「後で行こうよ、みんなで」
「え? みんなで?」健太郎が赤面した。「男女に分かれてたりしないんだろ?」
「いいじゃない。こんなときぐらい」春菜が言った。
「春菜もなかなか大胆なこと言うよね」夏輝がにやにや笑いながら言った。「でもま、荷物の管理もあるから、四人でいっぺんに風呂に入るのは、防犯上ちょっとやばいかもね」
「それもそうか」春菜は頭を掻いた。
「って、俺たち以外に人なんかいねえだろ、ここには」
「わかんないよ、人間に化けた狐が、いろいろ持ってっちゃうかもよ」
「ありえねえし」修平は呆れ顔をした後、再びその案内パンフレットに目を落とした。「んで、ずっと上の方に神社らしきものがある。」
「神社?」
「無人なんだろうがな。『稲荷神社』って書いてあら」
「そうか、さっきの祠はその出張所みたいなものなんだね」夏輝が言った。
「出張所だって」春菜は笑った。
「祠?」修平が立ち上がって、持っていたパンフレットを健太郎に手渡した。「何かあったのか?」
「ああ。流し場の奥の森の中にな、小さな狐の祠が建ってたんだ」
「へえ」