領主様の休暇場所-2
ーーそして冬の落日を迎える時刻。
「おつかれさまです。こちらが本日、最後の書類となります」
リドの差し出した封筒に、ルーファスは疲れていた目をカッと見開いた。
美しい筆跡で書かれたそれは、カテリナからの手紙だった。
もどかしく封を切って取り出すと、万事順調のため、予定より早く帰宅できそうだと書いてある。そして短くはあるが、ルーファスへの愛情が溢れんばかりの文章がつづられていた。
「今朝、早くに届きました。クレオからも私宛の手紙が同時にに来ましたので、恐らく内容はほぼ同じかと」
涼しい顔で、リドが内ポケットから取り出した封筒を振って見せる。
「自分だけズルいぞ!」
「朝一番で渡したら、当主さまは有頂天になって仕事に身が入りませんからね」
涼しい顔でリドは答えるが、もうルーファスは殆ど聞いていなかった。
「そうか、明日くらいには着くかもしれないな」
締め切っていた窓に駆け寄って全開にし、カテリナが帰ってくる方角へ目をこらす。
城下町と逆方角には、緩やかな丘が連なり、細く見える街道に、小さな点が動いていた。
「!! きっとカテリナの馬車だ!!」
温泉地からここまで、姫君が馬車でゆったり旅をすれば、数日はかかる。だが道は平坦だから、乗り手が急ごうと思えば、馬にそれほど負担をかけなくとも、かなりの速さで着けるだろう。
「当たりです。あの距離を、よく肉眼で判別できますね」
隣で双眼鏡を手にしたリドが、驚きを通り越して呆れた声を上げた。
「見えなくたって、俺はカテリナの気配を感じられるからな」
胸を張って答えると、気持ち悪そうな目で見られたが、有頂天のルーファスは気にならない。
「……こんなにお急ぎの帰還では、奥様はさぞお疲れでしょう。早速、湯浴みと軽い食事の用意を始めさせます」
リドは咳払いをし、表情を普段使いのポーカーフェイスに改めて、退室していったが、その足取りがいつもより軽いのを、ルーファスは見逃さなかった。
顔に出さなくても、彼だって、一緒の馬車に乗っているはずのクレオが嬉しいのだ。
リドはルーファスに手紙をすぐ渡さなくとも、カテリナたちがいつ帰ってきても良いように、朝からちゃんと準備を整えさせていたらしい。
コックもメイドたちも、特に慌てふためく事なく部屋や食事の用意をし、長旅から帰って来た領主夫人を出迎えた。
――そして、暖かい湯を張った浴槽の中で、ルーファスは四ヶ月ぶりに共に過ごす愛妻を後ろから抱き締めた。
「あ、ふ……ルーファスさま……」
長い金髪をまとめあげたカテリナが、うなじを舐められる感触に身を捩った。
一緒に湯浴みをと要求すると、頬を染めて恥らっていたが、結局はルーファスのわがままをいつも聞いてくれる彼女が、可愛らしくてたまらない。
「訪問は上手くいったそうだな」
「え、ええ……多くの方が、快く協力を約束してくださいました」
薄っすら立ち昇る湯気の中で、ふわりとカテリナが幸せそうに微笑む。
やっぱり、彼女をこの城に閉じ込めたりしてはいけないのだと思い知った。
城で夫を待ち続ける有閑な領主婦人になどしてしまえば、カテリナは罪の意識に押しつぶされてしまうだろう。
騙されていたとはいえ、自身の犯した罪を深く悔いている彼女には、贖罪が必要なのだ。
かつてアンジェラという暗殺者だった彼女が、間違った形で成そうとした孤児たちへの救済を、本当のやり方で行うことだけが、彼女自身を救うことにもなるのだから。
「これだけ魅力的な女性に、慈善事業をお願いされれば、断るわけにはいかないさ」
抱えた身体を反転させ、膝の上に向かい合わせて座らせる。
湯の浮力も手伝って、細い身体は殆ど重みを感じない。本当に天使を抱えているような気分になる。
濡れた手でカテリナの頬を包んで、覗き込んだ。
「カテリナに会いたくて、たまらなかった」
「……私も、お会いしたかったです」
恥ずかしそうに少しだけ目を伏せ、カテリナが小声で告白する。
嬉しくてたまらず唇を合わせて口内を貪った。散々味わってから首筋に唇を移動させ、湯に浮いている乳房にも吸い付く。
久しぶりに味わう肌は例えようもなく美味しくて、何よりのご馳走に感じた。
ひとしきり愛撫を施したあと、カテリナを浴槽の縁に掴まらせ、後ろから抱き締めて貫いた。
「あぁっ! ル、ルーファスさま……あ、あ、くぅ……」
四ヶ月も何もされていなかった場所は、処女に戻ったようにギチギチと締め付けてくる。
しかし、ちゃんとルーファスに教え込まれた快楽は覚えていて、奥からトロリと蜜を溢れさせると同時に、内壁が柔らかく蠢きだした。
尖りきっている胸の先端を摘むと、喉を大きく反らせて鳴く。
いつもより感じやすくなっているらしく、何度か奥を突くとあえなく達してビクビクと身をひきつらせた。
――なるほど、離れている期間は辛かったが、そのあとでこんなご褒美があるなら、そう悪くもないか。
つい、そんな考えが頭を横切り、カテリナから見えないのを良い事に、背後で盛大にニヤける。
「温泉地へはなかなか行けそうにないが、カテリナと湯浴みできるなら、俺にとってはここは一番の保養地だな」
媚態に目を細めながら、ルーファスは囁いた。
カテリナがいればどこだって、最高の休暇場所になる。
終