頭の中で鳴る警報-1
広いはずの世界も、案外ちっぽけだったりする。
突然電話が繋がらなくなって、送ったメールも戻ってきた時はもう二度と会えないような気がしたけれど、こうやってアイツの後ろ姿を偶然見つけちゃったりしちゃうと、やっぱりあたしとアイツは運命のようなもので結ばれてると確信する。
だから陽介を偶然見かけた時、ただただ嬉しくて彼しか見えていなかったあたしは、人でごった返す日曜の繁華街にも関わらず大きな声をあげてしまった。
「陽介!!」
その名前を叫ぶと、陽介はピタリと歩みを止めた。
後ろを歩いていた休日出勤と思しきサラリーマンが、突然立ち止った陽介を避けて前に進んで行く。
人の流れを止めるように突っ立っていた陽介の横顔が見えると、愛しさで涙がこみ上げてきた。
ずっと、ずっと会いたかった。
変わらない端正な横顔に、募る想いが一気に溢れてきたあたしは、人目もはばからず陽介の背中を抱き締めたくなって、彼の元へと駆け寄った。
でも次の瞬間、自分の脚が勢いを失い、終いには立ち止ってしまう。
相変わらず突っ立ったままの陽介を、人々は器用に避けて進んでいくから、次第に彼の後ろ姿が全て見えるようになった。
相変わらず細身な背中。少し伸びたショートヘア。眩しいほど真っ白なTシャツの袖から覗く、ちょっぴりゴツゴツした長い腕。
あの腕で何度も抱き締められてきたあたしは、それを見るともう一度包まれたくなって、胸がキュンと締め付けられる。
だけどあたしの脚を止めたのは、その腕の先に白くて細い腕が並んでいたからだった。
陽介の手は別の誰かの手としっかり繋がれていて、あたしはそれから目が離せなかった。
「おう、久しぶり」
久しぶりに聞く、陽介の声でハッと我に返った。
顔を上げると、陽介の猫みたいに大きな瞳が少しだけ細められて屈託のない笑顔を作っていた。
その変わらない笑顔を見ただけで、涙がこぼれそうになる。
でも、それを悟られないようにキュッと下唇を噛んで俯くと、また陽介が他の手を繋いでいるのが目に入るから、思わずそれから目を背けた。