頭の中で鳴る警報-5
「陽介って細いくせに質より量だもんね。だから女の子の好きそうなカフェとかイタリアンとか嫌がるんだもん」
「……うるせえよ」
恥ずかしそうにジロリと睨むその視線が懐かしくて、ついつい顔が綻んでしまう。
昔の彼女と付き合ってた時は、雑誌に載るようなお店ばかり行きたがるってボヤいてたよね。
汚いラーメン屋のカウンターで肩を並べながら愚痴る陽介に、「ホントは陽介は貧乏舌なのにね」なんて笑ったら、よく同じ顔してむくれてたっけ。
でも、彼女にはさらけ出せない部分をあたしにだけさらけ出してくれたことは、嬉しくてたまらなかった。
そんな優越感を思い出していたあたしは、気付いたら、
「そうだ、恵ちゃん。甘いものが好きなら、ケーキがすっごく美味しいカフェ知ってるよ! 今度よかったら一緒にお茶しようよ!」
と、口にしていた。
この娘に見せつけてやりたかったから、あたしと陽介の歴史を。
確かめたかったから、こんな地味な女の子に、陽介は本気になっているのかを。
あたしの申し出にサッと顔を曇らせた表情は、予想通り。
あたしだってこの娘の立場だったら同じ顔をしていたと思うから。
――だからこそ、もう後には退けない。
「おい、くるみ……」
戸惑っている恵ちゃんを見かねた陽介は、あたしの肩に手を置いた。
彼に触れられた途端、跳ね上がる心臓と、一気に上昇する体温。
どうやら身体はやっぱり陽介を欲してるみたいだ。
そんな激しい劣情を包み隠したあたしは、なるべく平静を装ってニッコリ笑って見せた。
「え、いいじゃない。恵ちゃんって普通っぽくて可愛らしい感じだし、お友達になりたいんだけど? 別に陽介の連絡先を教えてって言ってるわけじゃないんだし、これくらいいいでしょ」
あたしがそう言うと、置いた手を引っ込める陽介。そしてゆっくり彼女の方を見ると、
「いいのか、メグ?」
と、申し訳なさそうに言った。
彼女を気遣うその態度があたしの神経を逆撫でする。
だから、あたしは言葉の端々に『陽介を理解している自分』をアピールして、さりげなく恵ちゃんを不安にさせる。
「大丈夫だって、取って食べたりなんかしないから! あ、心配してんでしょ。彼女によけいなこと喋るんじゃないかって」
「バカ、ちげえよ」
「だったらいいでしょ! あたし、恵ちゃんのこと気 に入っちゃったから、陽介のことについて色々教えてあげるから! だから今度会おうよ」
気に入ったなんて大嘘。こんな娘がカノジョだなんて絶対認めないんだから。
あたしと陽介のやり取りに、苦虫を噛み潰したような顔をしている恵ちゃんがなんだかとっても滑稽に見えた。