オオカミさんの ほしいもの -7
「――マルセラ!!」
肩を揺さぶられ、マルセラは目を開けた。
目の前にジークの強張った顔がある。黒いタンクトップにジーンズの姿で、シャワーを浴びたばかりなのか、短い金髪からはまだ水滴が滴っていた。
「あ……」
ひどく息が切れ、心臓がドクドクと激しく脈打っている。頬に触ると、涙でベットリ濡れていた。
「いきなり叫び声が聞えたから、どうしたかと思ったら……」
ほっとした様子でジークは手を離し、首にかけたタオルで乱暴に髪を拭いた。
「悪い夢でも見たか?」
「うん……」
目端をこすり、マルセラは頷く。
優しい拒絶を聞き、夢の中で泣き叫んだ。
あれは、内心でずっと恐れていた言葉そのものだ。
ジークは誰よりも強く、マルセラの英雄でいてくれる。そして弱いマルセラから受け取るものなど、何も必要としない。
「……もう平気。驚かせて、ごめんね」
無理やり笑うと、ジークが深い溜め息をつく。
そして横を向き、唐突に自分の額を殴りつけた。
「えぇっ!? な、なに!?」
「なんでもねぇ! ……くそっ……落ち着け、俺…………っ!」
何度か自分の頭を殴りつけたあげく、ジークはようやく拳を止めて首をふった。ゼーハーと深呼吸し、眉間に深い皺を寄せたしかめっ面で口を開く。
「ちょっと詰めろ。一緒に寝るぞ」
「……え?」
「一緒に寝るだけだ! 妙なことはしねぇから、安心しろ。それとも嫌か?」
「う、ううん!」
慌ててベッドの片側に身を寄せると、ジークが隣りに身体を滑り込ませた。
いくらマルセラが小柄でも、長身のジークと一緒では、一人用のベッドは少し狭い。身体が密着し、鼓動が勝手に跳ね上がる。
(そういえば……)
小さな頃、温泉旅行に連れて行ってもらい、こんな風に一緒に寝た事を思い出した。
思わず口元が緩み、小さな笑いが漏れる。
「なんだ、いきなり元気になったじゃねぇか」
ジークが苦笑する。
「うん。昔、旅行に連れてってもらった時の事、思い出した」
「ああ、そんなこともあったな。あの時は大変だった」
「オークが来たし」
「お前は怖かったくせに、一人で大丈夫だって、部屋で震えてたし……今でも変わんねーな」
ジークが目を細めて笑うと、少し目立つ犬歯が口端から覗いた。
力強い腕に、そっと抱き締められた。
「傍にいるから、安心して寝ろ」
「……うん」
久しぶりにジークの体温をしっかり感じ、小さな子どもに戻った気がした。高鳴っていた鼓動が収まるにつれ、トロンと瞼が落ちてくる。
もっと起きていたいのに、眠くてたまらない。
「寝ちまえよ」
穏やかな声と共に、閉じた瞼へ柔らかい感触がそっと落ちた。