オオカミさんの ほしいもの -5
***
(――ジークから見れば、いつまでたっても私は子どもなんだろうなぁ……)
学校帰りに夕飯の買い物をしながら、マルセラは溜め息を押し殺した。
腕を組んで買い物している若い男女は、新婚夫婦なのだろうか。歳の差はせいぜい二つ三つといったところだろう。
大人になってしまえば、十三歳の差など珍しくないように思えた。
二十も三十も歳が離れた夫婦だって、ざらにいる。
けれどジークは、マルセラに性的な欲求を持って指一本触れようとはしない。
夕方のスーパーは、同じように夕飯の買い物に来ている主婦や家族連れが多いが、店内は比較的空いていた。
近くに大型のショッピングモールがあるせいだ。
しかしマルセラは、未だにどこのモールだろうと入れない。入ろうとすると、恐怖で足がすくんでしまうのだ。
『モールで買い物できなくたって、死にゃしねぇよ』――と、ジークがぶっきらぼうに言う通り、王都にはそれこそ無数の店があるから、生活には困らない。
どうしてもモールにしかない品が欲しい時は、ジークが買ってきてくれる。
惨劇の起きた建物はすでに取り壊され、今ではまったく別の建物になっているが、一緒に出かける時も、彼は絶対にその近くへ行こうとはしない。
ひどく気を使ってくれているのを、ちゃんと知っている。
皆に優しい人じゃないけれど、少なくともマルセラと祖母には優しい。
ベタベタじゃれつくのは拒否しても、普通になら近づいてくれる。マルセラの作るご飯を、美味いと喜んでくれる。
けれど……マルセラを恋愛対象に見れないのなら、どうして結婚までしたのか、ジークの本音がわからなくて不安なのだ。
(もしかしたら、あれも……私とお祖母ちゃんが困ってたのを、助けようとしてくれたのかな……?)
今までの経験からして、可能性ではゼロでないと青ざめる。
(どうして……?)
ジークだって、自分の幸せを優先すればいいのに。
どうしていつも、彼はマルセラの幸せを優先するのだろう……?
モヤモヤとした気分のまま、一人で夕食を作って一人で食べた。
ジークは今日、深夜までの勤務で、食事も署の食堂で済ませる。
新居も集合住宅の一室だが、以前に祖母と暮らしていた部屋よりも広く、部屋数も多い。
テレビの賑やかな番組を流しても、自分一人の家はやけに静かで落ち着かなかった。
明日は週末で、ジークも休みだといっていた。彼が週末に休めるなど珍しく、久々に一緒に過ごす休日を楽しみにしていたのに、ちっとも心が躍らない。
風呂を済ませ、自分の部屋で机に向うが、魔方陣の図も呪文の応用問題も、一向に頭に入らず、時計はまだ九時をさしていたが、ベッドに倒れこんだ。
枕もとのスイッチで、部屋の明りを小さくする。
小さくても電気の明りがついてないと眠れないのも、あの事件からだ。魔法灯火の偉大さを知っているが、電気が消えた部屋では息が出来ない。
重い瞼が自然に閉じ、数秒後にはもう眠りに落ちていた。