オオカミさんの ほしいもの -4
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「――それは夫というより、親戚のお兄さんポジションね。もしくはお父さん」
魔法学校の実験室で、薬の器材を片付けながら、友人のエレオノーラが断定する。
「うう……そうだよ。前とまったく変わらない……っていうか、むしろガードが硬くなった気すらする」
マルセラは教材本を抱えたまま、がっくりと戸棚に額をついた。
寝室は問答無用で別にされ、一緒に寝るどころではない。
さり気なくくっついても、すぐに身体を離される。
最初は我慢していたが、あまりの素っ気無さに、段々と不安になってきた。このままではいつまでたっても、単なる同居の子ども扱いだ。
もしかしたら、情事そのものが嫌いなのかとも思い、何でも知っているウリセスに、こっそりと相談したら、困ったように苦笑された。
『特定の恋人はいなかったようですが、そういう潔癖なタイプでもないでしょうね。小さな頃から知っている貴女だからこそ、大切で手を出せないんじゃないですか?』
そういう表現をされれば嬉しいが、つまりマルセラが今のままでは、その気になれないということだろうか。
とりあえず資料にと、ウリセスは恋愛系の本や雑誌を紙袋いっぱいくれたので、ありがたく持ち帰った。
資料には少女向けなのに、かなりきわどい物もあり、考えもしなかった男女の行為を、赤面しながら読んで研究した。
――なるほど、どうやら足りなかったのは、色気らしい。
しかし、恥ずかしいのを我慢して様々な努力もしたのに、どれも惨敗続きだ。
風呂に入っている時、背中を流すと言ったら、脱兎の勢いで逃げられた。
透け素材のベビードールを着て見せたら、毛布でぐるぐる巻きにされて部屋に叩き込まれた。
帰宅を待ち構え、下着にフリル付きエプロンの姿で出迎えたら、そのままドアをバタンと閉められ、服を着るまで帰らないと、電話で散々叱られた。
「はぁ〜、なんで駄目なのかなぁ?」
「さぁ……しかし、これに見向きもしないとは、マルセラの旦那様は、なんと勿体無い」
突然、エレオノーラに背後から、ぐわしっと胸を鷲づかみされる。
「ふわっ!?」
「んふふふ〜、マルセラったら、あいかわらず良い身体しておりますわね〜」
エレオノーラのファンが見たら泣くだろう。
爵位まで持っている良家のお嬢様であり、外見も清楚な淑女な彼女だが、中身はエロオヤジだ。
むにむにと胸を揉まれ、くすぐったさにマルセラは笑い転げる。
「あははっ! やめてよっ! く、くすぐったい〜!」
クラスどころか学校で一番背が低いマルセラだが、胸だけはなぜか平均以上に発達していた。おかげで合う下着を探すのが大変だ。
「何を食べたらこんな体型になれるか、白状なさい!」
「わかんないよ〜! あ、あはははっ!」
とにかく好き嫌いは無い。昔は苦手だってピーマンも平気で食べられる。
笑いすぎて涙が出てきたが、それには別の感情も混ざっていた。
ツキンと胸の奥が痛んだのをエレオノーラにばれないように、こっそり歯を喰いしばった。