オオカミさんの ほしいもの -15
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――真っ白い空間で、赤い狼の頭をした青年が、小さなマルセラを見下ろしていた。
『俺は一人でも平気なはずだったんだ』
なんだか悔しそうに、赤い狼がうな垂れる。
『お前のもってる物なんか、欲しくねぇんだよ』
拗ねた子どものように、赤い狼はそっぽをむいた。チラリと横目でこちらを見て、何度も躊躇ってから、ようやく鋭い牙の生えた口を開く。
『でも……な、どうしても欲しいのは、モノじゃなくて、お前だって言ったら……お前は自分をくれるのかよ』
『わたしを……?』
キョトンとしたマルセラに、赤い狼が噛み付きそうな声で唸る。
『婆さんのところに遊びにいったって良いさ。俺がどんな化物からも守ってやる。けど、最後は絶対に俺の所に帰ってくると約束しろ』
長身の狼は膝を折り、マルセラを抱き締めた。
『お前をくれよ。お前以外は、何にもいらない』
泣きそうな声で言う赤い狼に、マルセラも思い切りだきついた。
誰よりも強くて、ちょっとだけ意地悪な、この最高の英雄が、マルセラだって大好きなのだ。
『あげる! なんでもあげるって、やくそくだもん』
『……本当か?』
『うん!』
琥珀色の両眼をまっすぐ見て、約束する。
もうどこにも離れないように、大きな手を、ぎゅっと両手で握りしめた。
『だから、ずっと、いっしょにいようね!』
終