あたしの想い人-1
◇ ◇ ◇
あたしは、崩れ落ちてきた彼の身体に愛おしそうに腕をまわした。
まだ荒い呼吸が耳元で囁くように聞こえ、汗ばんだ身体があたしに張り付いたままそれに合わせて小さく動いている。
身体にのしかかる彼の重みをこうやって受け止めるのがたまらなく好きだった。
「……何見てんの?」
呼吸を整えようとしながら、谷田部塁(やたべるい)はあたしを見下ろした。
「いや、そんなに息切らして、よっぽど疲れるのかなあって思って」
あたしも息は乱れているけど、塁のそれとは比にならない。
「すげー疲れた」
塁はそう言って、あたしに背を向けベッドに足を降ろした。
背中には、あたしが立てた爪の跡が生々しく残っている。
あたしは、体を起こしてその爪跡をそっと撫でる。
塁は枕元に置いていた煙草を一本取り出すと、カチリとライターの火を点け、深く煙を吸い込んでから、
「玲香、コーヒー作って」
と、こちらを見ずに部屋を薄暗く照らすランプに向けて煙を吐いた。