温泉休暇の大騒動-1
*旅館内で下駄を履いている描写がありますが、靴を履く文化の国なので、宿側の妥協点と御容赦ください。
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本日は王都内のホテルにて、バーグレイ・カンパニーの創立記念パーティーが開催されている。
ギルベルトとエメリナも招待された。
夜景の美しい会場で、立食形式の宴はまだまだ盛況だが、一息つこうと抜けてきたところだ。
「旅行のチケットが当たったんですか!?」
静かな休憩所のソファーに座り、ギルベルトが旅券の封筒とパンフレット一式を見せると、エメリナが驚愕の声をあげた。
「うん、良かったら一緒に行かないか?」
「わっ、嬉しいです!」
豪華なシャンデリアの光が、夜会用に編み上げられた亜麻色の髪を美しく照らしている。
ロイヤルブルーのサテンドレスと真珠のアクセサリーをつけた彼女は、いつもと別人のようだ。
エルフという高水準の美には及ばなくとも、こんなふうに美しく装い、化粧をしてすましていれば、気品あふれるどこかのご令嬢といっても通るだろう。
ギルベルトも礼服を着ていたが、正直言ってこういう服装は苦手だ。
休憩所は他に誰もいなかったから、つい窮屈なネクタイを少しだけ緩めると、エメリナが一瞬だけニマっとしたのが、視界の隅に映った。
――あ、やっぱり中身はエメリナくんだ。
ギルベルトは密かに笑いを堪える。
美しく装ったエメリナも好きだが、変わらない内部を見つけて、なんとなくホットする。
彼女は感情がストレートに顔に出て、非常に解りやすい。
特に好きなものを見ると、非常に嬉しそうにニヤけるクセがある。
そこが面白くて可愛いと思うのだが、当人は恥ずかしいようで、必死に隠そうと努力している姿が、また面白い。
あえて突っ込まないが、どうやらネクタイが大好きらしく、ギルベルトがつけると盛大にニヤつくのも、ちゃんと知っている。
だからウリセスのような、スーツとネクタイが標準装備のタイプが好きかと思っていたのに、自分を選んでくれたのが意外でもあり嬉しかった。
「実を言えば、当てたのはウリセスだけど、俺の景品の方が良いって、交換してくれたんだ」
ギルベルトは笑って種明かしをする。
パーティーの余興で、会場のあちこちに番号を記したカードが隠され、見つけた者からプレゼントをもらえるのだが、ギルベルトに当たったのは、なんとノートパソコンだった。
電気製品を身体が拒否する彼には、まさに無用の長物である。
景品を受け取った時、たまたまエメリナは化粧室にいっており、近くにいたのはウリセスだった。
そして彼の当てた旅行のペアチケットも、仕事以外は出無精な彼にとっては、不要品だったらしい。
『僕はノートパソコンのほうが欲しかったんです。ギル、交換しましょう、そうしましょう!
旅行はエメリナといってらっしゃーい♪ 美味しいお土産を期待していますよ』
どう考えてもチケットのほうが高額品だったのだが、問答無用でトレードされ、ウリセスはノートパソコンを小脇に、さっさとどこかへ行ってしまった。
細身に合わず大食いの彼に、ご当地の美味しいお土産を、山ほど買ってくるべきだろう。