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大陸各地の小さな話
【ファンタジー その他小説】

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温泉休暇の大騒動-1

*旅館内で下駄を履いている描写がありますが、靴を履く文化の国なので、宿側の妥協点と御容赦ください。


 ***


 本日は王都内のホテルにて、バーグレイ・カンパニーの創立記念パーティーが開催されている。
 ギルベルトとエメリナも招待された。
 夜景の美しい会場で、立食形式の宴はまだまだ盛況だが、一息つこうと抜けてきたところだ。

「旅行のチケットが当たったんですか!?」

 静かな休憩所のソファーに座り、ギルベルトが旅券の封筒とパンフレット一式を見せると、エメリナが驚愕の声をあげた。

「うん、良かったら一緒に行かないか?」

「わっ、嬉しいです!」
 
 豪華なシャンデリアの光が、夜会用に編み上げられた亜麻色の髪を美しく照らしている。
 ロイヤルブルーのサテンドレスと真珠のアクセサリーをつけた彼女は、いつもと別人のようだ。

 エルフという高水準の美には及ばなくとも、こんなふうに美しく装い、化粧をしてすましていれば、気品あふれるどこかのご令嬢といっても通るだろう。

 ギルベルトも礼服を着ていたが、正直言ってこういう服装は苦手だ。
 休憩所は他に誰もいなかったから、つい窮屈なネクタイを少しだけ緩めると、エメリナが一瞬だけニマっとしたのが、視界の隅に映った。

 ――あ、やっぱり中身はエメリナくんだ。

 ギルベルトは密かに笑いを堪える。
 美しく装ったエメリナも好きだが、変わらない内部を見つけて、なんとなくホットする。
 彼女は感情がストレートに顔に出て、非常に解りやすい。
 特に好きなものを見ると、非常に嬉しそうにニヤけるクセがある。
 そこが面白くて可愛いと思うのだが、当人は恥ずかしいようで、必死に隠そうと努力している姿が、また面白い。

 あえて突っ込まないが、どうやらネクタイが大好きらしく、ギルベルトがつけると盛大にニヤつくのも、ちゃんと知っている。
 だからウリセスのような、スーツとネクタイが標準装備のタイプが好きかと思っていたのに、自分を選んでくれたのが意外でもあり嬉しかった。

「実を言えば、当てたのはウリセスだけど、俺の景品の方が良いって、交換してくれたんだ」

 ギルベルトは笑って種明かしをする。
 パーティーの余興で、会場のあちこちに番号を記したカードが隠され、見つけた者からプレゼントをもらえるのだが、ギルベルトに当たったのは、なんとノートパソコンだった。
 電気製品を身体が拒否する彼には、まさに無用の長物である。
 景品を受け取った時、たまたまエメリナは化粧室にいっており、近くにいたのはウリセスだった。
 そして彼の当てた旅行のペアチケットも、仕事以外は出無精な彼にとっては、不要品だったらしい。

『僕はノートパソコンのほうが欲しかったんです。ギル、交換しましょう、そうしましょう!
 旅行はエメリナといってらっしゃーい♪ 美味しいお土産を期待していますよ』

 どう考えてもチケットのほうが高額品だったのだが、問答無用でトレードされ、ウリセスはノートパソコンを小脇に、さっさとどこかへ行ってしまった。

 細身に合わず大食いの彼に、ご当地の美味しいお土産を、山ほど買ってくるべきだろう。



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