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THANK YOU !! ver. distance love
【純愛 恋愛小説】

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THANK YOU!!-1


9-11

どれくらい眠っていたのだろう。
意識を取り戻した瑞稀が一番に思ったことだった。
今、自分がどこにいるかなんて分かりきっている。見慣れている天井。馴染みのあるベッド。まだ頭痛が響いている頭を抱えながらも上半身を起こすと、寝かされていたのはやはり自分の部屋だった。色々な所に目をやると、部屋の隅に自分のモノではない荷物が置かれていた。多分、自分を運んでくれた人のモノだろう。

目が覚めた時、自分の視界に天井しか映らなかったことが何故か酷く物寂しくて、急に温もりが欲しくなってたまらなくなる。
今の自分に何が足りないのか、分かっているようで分からない。もどかしい気持ちを、そのまま溜息として吐き出した時に部屋のドアが開いた。
起き上がっている瑞稀を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐにほっとした表情になったのはエンディだった。

『起きたのね、ミズキ』
『・・エンディ。私どれくらい寝てた?』
『丸2日よ。ちなみに原因は寝不足とストレスの溜め込み。』
『やっぱり寝不足か・・』

予想範疇なので、いまさら驚きもしない。倒れるとは思っていなかったが。
そんな瑞稀とは裏腹にエンディはジト目を向ける。

『こっちはびっくりよ、レモンティーがドアの下から溢れてきたんだから。何かあったのかと思って慌てて中に入ったらアナタが倒れてるじゃない。ちょっとしたパニックよ!』
『・・あ、ご、ゴメン・・』
『とにかく、明日までは安静にしておくことね。』
『うん。』

部屋の片隅に置いてあったブランドモノのバッグを手にしたエンディはそのまま部屋を出ていこうとした。慌てて瑞稀は呼び止める。

『なに?』
『あの、・・・ありがとう』
『・・どういたしまして。』

軽く手を振り、今度こそ部屋を出て行くエンディを見送った瑞稀はバフンとベッドが弾むほどの音を立ててベッドへ倒れ込んだ。
正直、ずっと眠っていて頭がハッキリしないのと、寝起き特有のだるさに襲われていた。
が、エンディの為に何とか耐えしのぎった。
枕に頭をうずめ、今にも眠りに陥いるという時に、ベッド横に置いてあるチェストに置かれているケータイが着信を告げるライトの点滅に気がついてしまった。
普段なら気にしないのだが、チカチカと眠い目にクラクションを鳴らすように点滅し続けるので仕方なしに腕を伸ばしてケータイを毛布の中に引き込んだ。
毛布にくるまりながら、ケータイを開いて顔の位置まで持ってくる。

どうやら秋乃からメールが届いているようだ。
画面の明るさに慣れない目を瞬かせ、やっと慣れるとメールの内容を頭に入れる。

【TO:瑞稀 non title 本文:瑞稀、最近連絡無いけど、調子はどう?・・どうって言ってるけど、瑞稀がメンバー外れてるの分かってるよ。瑞稀のことだから色々と溜め込んでるんじゃない?メールの返信はいつでも良いから、話しな。】

「・・・・ぷっ」

寝ぼけた頭が冷えると同時に、内容を理解した瑞稀は思わず吹き出した。
相変わらずの、親友からのメールに。

「・・これ、強制じゃん。何があったかメールで話せって」

笑いながら、瑞稀は返信メールを作り始めた。直接会って話す訳ではないので、いかんせん説明が面倒だが簡潔にしておけば、秋乃のことだから読み取ってくれるだろう。
そういう無茶ぶりな期待を込めて10分かけたメールを送った。

メール送信画面が変わり、待ち受け画面に戻る。
すると、もう一つの着信を告げた。その着信は電話だった。
誰からか予想がつかず、画面を切り替えて発信元を確認した瑞稀は、目を見開いた。
発信元は、拓斗。

「・・拓斗が、何で・・?」

予想外の出来事に疑問を浮かべていた瑞稀の手の中で、着信を告げるバイブが鳴った。
慌てて画面を見ると、親友の恵梨からだった。
勢い良く電話に出る。

「恵梨?」
『瑞稀、久しぶり。』

本当に久しぶりに聞く親友の声に、瑞稀は涙がこぼれそうになる。
恋人の前ではと必死に取り繕っている仮面が、恵梨の前では簡単に剥がれてしまう瑞稀は、電話口で「恵梨ーっ・・」と涙声を出してしまった。
ケータイの受話口の向こうでハッと息を呑む様子が伺えたが、すぐに恵梨がどうかしたのかと優しい声で問うた。
その優しい声に導かれるまま、瑞稀は今までの事を話した。

30分かかって、話し終える頃には瑞稀の涙声も落ち着いてきていて、さらに自分の中に溜め込んでいたモノを吐き出したことで少し楽になった。

「・・っていうわけです・・」
『なるほど、大体分かったよ。・・とりあえずさ、今回はケアレスミスでしょ?だったら、いくらだって改善の余地あるってことだよ。』
「うん。」

恵梨の言葉に、瑞稀は頷く。確かにピストンの回しなんてただのケアレスミス以外の何者でもない。

『誰だってあることだし、気にしないで落ち着いてやってけばいいんじゃないかな。瑞稀の音は伸び伸びとした、何事にも囚われない自由な音なんだから。それを取り戻す為に自分を追い込むのはちょっと違う気がするよ』
「そっか・・。」
『自分の好きなように吹いてみると良いよ。トランペットだって、応えてくれるハズ。』
「・・うん、分かった。」

恵梨の言葉を心に深く刻み込んで、またも溢れそうな涙を拭う。
確かに気持ちに余裕なんて無かった。それが原因にもなっていたのかと瑞稀は気が付いた。



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