THANK YOU!!-6
廊下で偶然、自分のケータイで拓斗と話し込んでいたエンディからケータイを取り返した瑞稀はエンディの非礼を謝った。しかし、受話口からは何も聞こえてこない。
あまり無い様子に首を傾げて一体どうしたのかと思い、それを聞こうとした瑞稀の耳に、
『お前、何で何も言わないんだ』
「・・・え?」
『いつもそうだ。俺はいつも、あとから全てを、お前じゃない誰かから聞かされる。』
「た、拓斗?」
いつもの冷静じゃない拓斗の様子に、瑞稀は戸惑った。
何故、こんなにも怒って・・いや、感情が乱れているのだろうか。何故かと考えて、もしやエンディが本当に変な事を言ったのかと思い至る。
「まさかエンディが変なこと言った?なら、拓斗が気にする必要は」
『どこに恋人が倒れたことを聞かされて気にしない奴がいるんだよ!!』
「・・・!!」
拓斗の悲痛な叫び声に、瑞稀は一瞬呼吸を忘れた。
・・・バレている。
瑞稀の頭に、やってしまったという焦りと罪悪感が生まれる。
多分、エンディが今話してしまったんだろう。それで、怒っているのかと合点がいった。とりあえず、今自分が元気になった事を分かってもらって、落ち着かせなきゃいけないと思った瑞稀は、叫んだきり何も言わなくなった拓斗へ言葉を告げた。
「とりあえず、元気になったから・・」
『そういう問題じゃないだろ!?』
「・・・」
『いつも、そうだ!俺ばかり、何も知らないで・・何も言ってくれないで!!』
「・・それは・・」
迷惑をかけたくないから。負担になりたくないから。情けない姿を見せたくないから。
素直にそう言えばいいものを、言葉が上手く口から声になって出てくれない。
どれも本心なのに。
瑞稀が何も言えないでいると、拓斗が更に続けた。
『何の為に俺がいるんだよ!』
「・・・」
『何で、いつも自分のことは言ってくれないんだよ!』
「・・・・ゴメン」
意識して自分のことを話そうとしていない訳ではないのだが、今の瑞稀には謝ることしか言葉に上手くならなかった。瑞稀のゴメンという言葉に、拓斗が更に続けようとしていた言葉をつぐんだのが分かった。まるで、黙らせるために謝ったみたいだ。
そう、瑞稀はどこか他人事のように考えていた。
しばらくお互いそのままの状態で、何を言っていいか分からずに瑞稀が沈黙していると、小さく拓斗の息が吐き出された音が聞こえた。
わかってくれたのかと、落ち着いてくれたのかと、瑞稀も小さく息を吐いた瞬間に聞こえてきたのは、
『・・瑞稀、別れよう』
「・・・・・え・・?」
『だってそうだろ、頼ってもらえない、必要としてくれないんだ。居ないも同然だろ。』
「べ、つに・・そういうわけじゃ・・」
『でも結局お前は話してくれなかっただろ!!』
「・・・っ・・」
否定をしたいのに、出来ない。何を言えばいいか分からない。今、自分が何を言われているのか、把握が上手く出来ていない。
『俺は言ったはずだろ、何かあったら何でも言って欲しいって。恋人だから、好きだから言った。けどお前は話してくれなかった。俺のこと、恋人として見てくれてないんだろ』
「・・・」
『恋人って思ってくれてないのに、付き合える訳無いだろ!』
「・・・」
『どうせ俺が居なくても、平気だろ。何にも話さないんだから』
「・・・」
『じゃあな、期待のトランペッターさん』
その言葉を最後に、瑞稀の耳から離れたケータイからツーツーという無機質な遮断音が廊下に響く。
今、自分の身に起こった事が分からず、ただ突っ立っていた瑞稀の身体からふっと力が抜けて壁に叩きつけられる。
だが、その痛みも分からない程、瑞稀の思考は別なところへ飛んでいた。
今、自分は拓斗に何を言われたんだろう。
拒絶・・されたんじゃないのか、拓斗から。
心無い言葉をぶつけられて、自分のしてきたことを否定されたんじゃないのか。
ならば、今の今まで自分のやってきたことはなんだったのか。
それがたまらなく悔しかった。
「・・・っ・・ふっ・・うっ・・・」
片手で前髪をぐしゃっと握りつぶして、もう片方の、ケータイを持っている手で強く壁を叩いた。何度も。何度も。
何でこんなことになったんだろう。ただ、最愛の人であり、目標であり、自分の叶えたい夢である拓斗に迷惑をかけて巻き込みたくなかっただけなのに。理由が分からない歯がゆさに、瑞稀は涙を流した。
ただ、拓斗との関係が終わったということだけは確実だった。