THANK YOU!!-3
お粥を食べきった瑞稀は安静にしていろというエンディの言葉通り、身体を休めようとベッドに戻った。
眠りに入る前に、念のためとチェストに置いてあるケータイを手に取る。
と、秋乃から返信が来ていた。が、さすがにお腹もいっぱいになって本来あった眠気が見え隠れしているので長文メールを読む気になれずに待ち受け画面に戻す。
今日二度目の待ち受け画面に、瑞稀は拓斗から着信があったことを思い出した。
着信履歴の画面を出した瑞稀は躊躇った。
かけ直すか、否か。
すると、丁度躊躇っていた時、電話の画面に切り替わった。
「・・!!」
相手は、拓斗。
「・・どうしよう。」
電話に出たとして、必ず聞かれるのは電話に出なかった理由だ。
履歴を見ると、電話が来たのは昨日でまだ瑞稀が眠り込んでいた頃。
うまい言い訳も思いつかない瑞稀は、拓斗に誤魔化せる自信が無い。ただでさえ、前回の電話でさえも疑われていたというのに。
次に聞かれるのは、恐らく前回と同じく無理をしていないかということだろう。
それについても、瑞稀は上手くかわせる自信が無い。
恵梨に吐き出してしまったあとで、同じように吐き出してしまうかもしれない。
それでもイイんだろう。
でも、遠く離れた自分のことで拓斗まで巻き込みたくないし、迷惑をかけたくない。
何より、自分の情けないカッコ悪いところなんて見られたくないのだ。
いつだったか、自分に語ってくれた遠い日の夢。
そこにたどり着く為に全力の努力をしている拓斗の隣に並びたいから、この世界で自分も夢を見つけた。
頑張り続けて頂点に立とうとしている拓斗の隣で自分も一緒に笑っていたいという、夢を。
だけど、今の自分は失敗ばかりで、一緒に居られないなら少しでも刺激になるようにと頑張ってオーケストラで成功をしている姿を見せようとしているのだけど、空回りで。
なのに拓斗は着々と頂点に上がっていく。
今の自分は、足でまといでしかない気がして、ただ迷惑をかけている気がして。
「・・拓斗は、優しいから。」
だから、自分に対しての愛情の自信がないのかもしれない。
もしかしたら、私だけが好きなんじゃないって。拓斗はただ、私を気遣ってくれてるだけなんじゃないかって。
そう考えてしまうと、すべてが不安になるし、どうしていいか分からなくなる。
こんなグルグルしている自分はとにかく情けなくて、前に進んでいる恋人に見せていいものではないと瑞稀は思い直した。
「・・拓斗に電話するのは・・もっと自分がカッコ良く見せることが出来る時・・」
そう呟いた時、コール音が切れ、留守電のアナウンスが流れた。
訳もなく、ただぼうっと見ていた時。久しぶりに聞いた拓斗の声が耳に入ってきた。
『・・瑞稀?何か、あった?・・何があったか、瑞稀が言いたくないなら聞かない。だけど、約束してほしい。俺は瑞稀の恋人で、味方だ。辛いことや苦しいことがあったら、何でも言って欲しいんだ。絶対、一人で抱え込まないで欲しい。』
そこで、留守電の機能が切れたのか無機質な音しか聞こえなくなった。
瑞稀はただ、涙を溜めて、泣くのをこらえた。
泣いてしまったら、電話に出なかった意味が無くなるから。自分が今さっき言った言葉が嘘になってしまうから。
勢い良く目をぐしぐしとシャツの袖で拭うと、ケータイをチェストへ乱暴に置いて毛布を被った。
枕に顔をうずめて、もう一度眠りに入った。
「・・・瑞稀・・出なかったな」
こちらもケータイを乱暴にベッドチェストへ投げると、ベッドへ倒れ込んだ。
一応言いたいことは言ったつもりだが、瑞稀はどう受け取るだろうか。これで少しでも自分を頼ってくれると嬉しいんだけれど。
と考えていると、またもつけっぱなしにしているTVから瑞稀の話が流れてくる。
だけど、今の自分が求めているような話題ではなかった。
今、拓斗が知りたいのは、瑞稀が一人で抱え込んで無理をしていないかと言うこと。
前の秋乃から言われて観たTVで体調不良を起こしているなら、悪化していないかが何よりも気がかりだった。
「・・倒れたりしてたら、嫌だな・・」
そう呟いた拓斗はこれ以上無い最悪の事態を考えてしまって、慌てて頭を振る。
「いや、さすがにそこまではないよな・・。そうなったら、さすがに瑞稀も、言ってくれるだろうし・・」
誰に言い聞かせる訳でも無く、ただ呟いたがその割には言葉に自信が持てなかった。
一つ大きな溜息をついて、拓斗は寝返りを打った。
明日、もう一度電話してみようと思いながら。