桜の降る時-1
―満開の桜。その下に立っていると、桜の花びらが降ってきて、まるで雪が降っているみたい。春になると、桜を見ると、懐かしい気持ちになるのはなぜだろう?春は出会いと別れの季節だからかな?
あたし、水城 霞(みずき かすみ)。今日から高校3年生。受験だなんだとそろそろ気が重くなってくるけど…。世の中は桜の淡いピンクでいっぱいで、なんだか明るく感じた。
「かすみぃ〜っ!また同じクラスだったよ!やったね。」
学校に着いたあたしを、笑顔で迎えたのは親友の進藤 菜月(しんどう なつき)。
「ほんと?菜月とはこれで3年間一緒のクラスだね!ところで、彼は?松下くん。一緒になれた?」
「しーっ!!声が大きいよ、霞っ!」
そう言いながら、慌ててあたしの口を塞ぐ。その菜月の慌てかたを見てるとなんだかおかしかった。
「誰もいないから大丈夫だって!で、どうなの?」
「…同じクラスだった…。どうしよう!緊張してきちゃったよっ!」
菜月は松下 慧悟(まつした けいご)に片思いしていた。3年生になって、初めて同じクラスになれた。
「今まで同じクラスになれなかったのに、高校最後の年に同じクラスだなんてなんだか運命じゃない?菜月、がんばれっ!!」
「よしっ!がんばる!…ところで、霞は何にもないの?好きな人とかさ…。霞のそうゆう話、聞いたことないんだけど…。」
うっ!きたっ。しょうがないじゃん。好きな人いないんだから。
自慢じゃないがあたしは初恋もまだ。興味がないわけじゃないけど、恋愛感情をもったことがない。
「あたしの話はいいから。始業式始まるよ?体育館いこ。」
「またぁ。そうやってはぐらかす!誰かいるんじゃないの?」
話を続けたがる菜月を体育館へひっぱっていった。
だる…。なんだってこんなに話が長いわけ?
校長先生の話は長い。さっさと終わらせてくれたらいいのに。あたしはこの日3回目のあくびをしていた。
「え〜、ではここで新任の先生を紹介します。」
「ね、ね。霞。ほんとにいないの?好きな人とか、いいなと思う人とか。」
校長先生の話に退屈したのか菜月がさっきの話の続きをしてきた。
「ほんとにいない。そりゃ、かっこいいなとか思う人とかはいるよ?けど、好きとかとは違うと思うんだよね。」
「ふーん。霞にもないかなぁ?いい出会い。霞が、好きな人のことでどきどきしたり、そわそわしたりしてる姿見てみたいのにーっ!…あ、新任の先生とかどう?もしかしたら、若くてかっこよくて、恋に落ちちゃうかもよ?」
あたしのことを夢中に話す菜月につっこみをいれてやった。
「菜月が期待してる新任の先生とやらの紹介、終わったみたいよ。」
「うそ?ばかばかーっ!早く教えてよ!」
「菜月が話に夢中だったんじゃん。あたしもどんな先生か見てないけど…。どうせ、おじさんかおばさんじゃない?」
「…じゃ、新しいクラスの男の子に期待!さっ、いくわよ。」
今度は菜月があたしをひっぱっていった。
「きゃーっ。霞!いるいる。慧悟くんーっ!」
菜月が小声であたしに松下慧悟の存在を知らせる。あたしに素敵な男の子を探すんじゃなかったのか?と思いながら、よしよしと菜月をなだめる。
「おーい。みんな席につけー。」
教頭先生が教室に入ってくる。あたしたちは出席番号順に席についた。
「さきほど紹介があったが、君らのクラスは新任の藤森先生が担任することになった。じゃ、藤森先生。よろしくお願いします。」
教頭先生に連れられて、担任になる藤森先生とやらが入ってきた。