彼の名は-5
「じゃあ、宗川さんの理想のタイプってどんな奴?」
文屋さんのニタニタ顔に、若干ひきつった笑いが浮かぶ。
文屋さんの隣でひたすら料理をかっこんでいたはずの大久保さんまでもが、ニヤニヤしながらこちらを見てきた。
あたしの理想のタイプなんて知った所でどうなるんだろう。
文屋さんがあたしに好意を持っているんだろうなってのは、鈍いあたしでもわかる。
職場で隣に座る彼は、優しくて、いろいろ教えてくれて、たまに冗談なんかを言って笑わせてくれる、いい人だ。
でも、それ以上でもそれ以下でもない。
なのに、文屋さんみたいな地味で暗そうな男が、あたしに好意のようなものを持ったとわかった瞬間、なぜか苦手意識が急激に芽を出し始めた。
恋愛対象外の人が、自分をそういう目で見てたというのが、多分生理的に受け付けなかったのかもしれない。
「少なくとも文屋さんみたいな人じゃなければ誰でもいいです」
なんて、バッサリ斬り捨ててやりたかったけど、今後の仕事に支障をきたしそうだったので、喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。
とにかくこの鶏ガラみたいにやせ細ったチビの文屋さんと正反対のタイプを言えば、この話は終わるでしょ。
そう思い、あたしは
「背が高くて、ガッシリした身体つきで、カッコいい人がタイプでぇす」
と、わざとブリブリした口調で言い放ってやった。