蒼い日差し-8
話は核心に近づいていった。諸岡は言葉を選ぶようにその夜を辿った。
スクリーンで演じた薄幸の少女、爽やかな女子高生、重い病を背負いながら結ばれる純愛物語。……それらのイメージがすべて消えた一夜であった。
旅館に着いたのは六時過ぎ、薄暗くなっていた。落ち着く間もなく夕食になった。この忙しない流れが助かった。
「なにしろ同じ部屋だ。どうにも落ち着かない……」
食事中の彼女は思いのほかよく喋った。巡った観光地のこと、五能線での騒ぎ。
「あんなにもみくしゃにされたの初めて」
それからタクシーの運転手の話になって二人して笑った。青森駅に着いて彼女が料金を払うと車から降りてきて辺りを見回した。
「いやあ、青森は都会だなあ」
久しぶりだと言って、俺たちが切符売り場から振り返るとまだ駅前のビルを見上げていた。
「めったに来ないんだろうね」
「そうね、きっと」
「東京に来たら腰抜かすんじゃないかな」
ひととき話が弾んだ。
黙っていたら息が詰まりそうになったことだろう。
先に風呂に行ったのは彼女で、髪を洗いたいので少し時間がかかると言って部屋を出ていった。
程なく宿の男が布団を敷きにやってきた。ふんわりとふくらんだ二組の布団が並んだ。
「なんだか現実感がまるでなかったな……」
「そうだろうな……」
「浴衣に着替えた彼女が戻ってきて、俺が風呂に行ったんだが、部屋に戻る途中、もしかしたら彼女は部屋にいないかもしれないと思ったりしたよ」
彼女はすでに布団に入っていた。横向きになって顔は半ば布団に隠れていて見えない。
「どうしていいか、わからなかったよ」
このまま彼女が寝入ってしまえばそれでもいいと思った。何もない……このまま朝を迎える。その方がいいとさえ思えてきた。それほど異様に張りつめた静けさだった。
「自分から行動を起こせる雰囲気ではなかった……」
しばらくして布団の擦れる音がして、彼女の目が覗いた。
「いいのよ……」
そして、
「電気、消して……暗くして……」
それだけ言って背を向けたまま布団をはだけた。
彼女の体に触れてからはもうのめり込むだけだった。
「ああ……」
その柔らかさといったらたとえようがない。帯を解き、前をはだけると胸に顔を埋めていった。乳首もろとも乳房を口に含み、舐めながら揉みあげる。
彼女も呼応する。肌の匂いに酔った。夢中でむさぼるように愛撫する。彼女も俺を掻き抱き、全身をおののかせる。巨大な魚を抱えているように女体が反応した。
体中に口をつけた。むろん、秘められた泉にも……。
「あうう!}
伸びあがり、股間が開かれた。真っ暗闇ではない。丘の秘毛は薄い。
(彼女の秘部だ……)
唇を這わせつつ裂け目に舌を挿した。
「くっ……」
微かな淫臭に頭がぼうっとなっていく。
舐め上げてほどなく、彼女は小刻みに体を震わせてかみ殺した声を洩らした。やおら起き上がった彼女がのしかかってきたのはその直後だ。
唇を重ねてきて舌を差し込む濃厚な口づけ。そして唇は俺の体を吸い上げながらズキズキと血流逆巻く一物をすっぽり呑み込んだ。
驚いて頭を上げると闇に彼女の白目が浮かんだ。思わず息を呑んだ。
(女だ……妖艶な……女だ……)
天使の美少女は女になって燃えていた。
舌が先端にまとわりつく。顔が回転し、また上下し、そのきらめく心地よさは魂をも抜かれる想いであった。
そして彼女は自ら仰向けになり、迎える体勢をとった。脚を開き、さらに膝を引き上げた。
暗い中に長い髪が枕に乱れ散っている。白い裸身がぼんやり浮かぶ。宛がってから、
(美しい体を見たい……)
N・Yの裸……。思った時には立ち上がって明かりをつけていた。
「いや……」
彼女は胸を隠して身をよじった。
(見たい)
その美しさ。均整のとれた姿態。肉感。俺は彼女に跨って強引に胸を隠す腕を解こうと力を加えた。
「だめ、やめて」
(ここまできて何がだめだ)
無理やり押さえつけて胸を露にした。
(!……)
明かりを拒む理由がわかった。乳房にはいくつもの痣があった。いや、痣ではない。土気色に変色しているが、それは激しい情事の痕跡にちがいなかった。
(これほどまでに、誰と……)
胸を衝かれ、すぐにやり場のない嫉妬と情欲が俺を煽った。怒張を一気に埋め込んだ。
「いいい!」
乳房を貪って、突き上げた。彼女の腰がうねるように波打つ。夢中で抜き差しして、乳房を揉み、耐えられずに重なった。やがて彼女は踏ん張り、伸びあがって声を絞った。
「センセイ……」
彼女の口から洩れた言葉はそれだけだった。