バカは死ななきゃ治らない 〜side芽衣子〜-7
結局、こうやって最後は茂のペースにはまってしまうのだ。
気付けばあたしは、彼に手を引かれるままに、朝靄がかかる静かな通りを歩いていた。
日曜日の午前中は、人が少なくて気持ちがいい。
隣を見れば、あたしが心底惚れてしまったバカ男が鼻歌なんか呑気に歌っている。
多分茂はまた浮気をして、その度に殴られ、仲直りとして無理矢理身体を重ねてしまう、そんなバカなことを無限ループのように繰り返してしまうだろう。
バカは死ななきゃ治らない、なんて言うけれど、あたしも茂もいっぺん死んでみたら、こんなバカなことを止めることができるのかな。
そんなことを考えながら、チラッと彼の顔を見上げた。
「ん、どうした?」
「なんでもない」
慌てて首を横に振る。
死ぬとかそんなこと考えるのはやめよっと。
もっと楽しいこと……あたしも休みだし、今日は二人で出掛けたいな。
そう思い浮かぶと、あたしは再び彼を見つめた。
「ねえ茂、今日これからさ……」
「あ、芽衣子。今日2万くらいちょうだい」
茂が何かを思い出したようにあたしの言葉を遮った。
「は?」
「今日9時から、駅前のパチンコが新台入れ替えすんだよ。
今日こそ絶対勝ってくるからさ」
そう言って、彼は繋いでいた手を離し、その手のひらをこちらに向けた。
彼の無邪気な笑顔を見たその瞬間、“バカは死んでも治らない”って言葉が自然とあたしの頭の中をよぎった。
〜end〜