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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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凶暴回帰の満月夜-7


 ギルベルトの喉から、獣の咆哮があがった。チェーンソーを捉える腕に力を込め、退魔士もろとも弾き飛ばす。

「おわっ!?」

 鎖刃が地面を削り、芝生と土が派手に飛び散った。ジークは一転してすぐ跳ね起きる。ゴーグルの下から覗く口元がニヤリとつり上がる。

「やっと本気出したな、人狼」

 ――そうだ、俺は人狼だ!!

 言葉の変わりに獣の唸り声で返答を返す。
 家族や親類に変身できる者はいても、彼らの根底は人間だった。その中に産まれた自分も人間だと、ずっと思っていた。
 人狼の血を濃く継いだ身体を持ち、電気がはびこる世界に順応できずとも、根底は人間なのだと、頑なに思い込もうとしていた。

 どうして、そんな愚かな意地を張っていたのだろう。

「ぐ……ぐる、る……る……」

 耳障りなノイズが消え、開放感と凄まじい高揚感が、ギルベルトの全身を突き抜けた。

 楽しくて楽しくてたまらない。なんという幸運だろう。
 絶えたはずの同族と出会え、もっとも血の高揚する満月夜の死闘ができるのだ。
 人狼にとって、これ以上の喜びはない。
 この場でどちらが……たとえ両者が死んでもかまわない。

 ジンジンと耳奥が鳴る。不快な電気のノイズでなく、強烈な喜びに狼の血がたぎっている音だ。
 犬歯は牙に、爪は鋭く、目端は切れ長につりあがる。
 全身の骨がビキビキとしなり、形を変えていく。皮膚を暗灰色の厚い毛皮が覆う。各所の筋肉が相応しい分量へ増減する。
 満月の誘惑を受け入れた身体は、人間の目では確認できぬ速度で変貌を遂げた。

 破れた衣服を払い落とし、暗灰色の四足で芝生を踏みしめる。
 ギルベルトは大きく喉を反らし、満月を仰いで咆哮した。
 エメリナが真っ青な顔で自分を凝視するのも、もう気にならない。

 ――ああ、なんて気持ち良い!

 狼に変化したのではない。かりそめの姿から戻ったのだ。
 これこそが、人狼の真の姿だ!!


 鋭く一吼えし、身を低くした。足のバネを最大に使って跳躍する。ジークを飛び越え、着地と同時に反転して背後へと回りこんだ。
 鋭い牙が並ぶ口を大きく開き、頚椎を噛み折ろうと狙いを定める。
 しかし、首筋へ牙が届く寸前で、チェーンソーに阻まれた。向こうも人型とはいえ、人狼の運動能力は引き継いでいるのだろう。
 逆に顔を斬られそうになり、危ういところでギルベルトは避けた。回転する鎖刃に、毛皮が数本切られて夜空に舞い散る。

「ハハ!!お前、最高だよ!」

 互いに死角へ回りこもうと位置を変え、何度も襲い掛かっては避けるの繰り返しだった。
 致命傷を与えられずとも、牙や刃は互いの身体をかすめ、鮮血が芝生へ飛び散る。



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