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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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凶暴回帰の満月夜-5


 静まり返った記念公園の入り口は、硬く閉ざされていたが、背の高い鉄門の柵を握り、一気に飛び越えた。
 瞬く間に結界広場へ辿りつき、天使像の一つにもたれかかっている若い退魔士を見つける。
 広場の外灯は消えていたが、今夜の月は信じられないほど明るいし、ギルベルトは夜目が利く。退魔士の足元には、細身のロープで両手首を結わえられたエメリナが倒れていた。

「エメリナ!!」

「せ、せんせ……?」

 エメリナは薄っすらと目を開けたが、上手く起き上がれないようだ。芝生に横たわったまま、顔をしかめて小さく呻く。

「流石に街中は狼で走れなかったか?それにしちゃ、随分早かったな」

 金髪を逆立てた退魔士の青年が、満足そうな声をあげた。

「そっちの情報だけ見たのは、不公平だったからな、一応名乗るぜ。ジーク・エスカランテだ。所属は中央西区署の第五部隊」

「エメリナくんは、俺の正体を知らずに雇われていただけだ。罪に問うのは俺だけにして貰おう」

 エメリナの安全を最重要に考えろと、怒りを必死に押し殺す。
 相手がちょっと腕が立つ程度の人間であれば、ギルベルトはとっくに彼女を奪還していただろう。
 だが、この退魔士は妙に隙がないのだ。気負っている様子などまるでないのに、踏み込むきっかけを与えない。

「メッセージをちゃんと見なかったのか? 俺は手柄が欲しいんじゃなくて、北国最強の魔獣と戦いたいんだ。でなきゃこんな苦労をするかよ」

 ギラギラと自分を射抜くジークの視線に、あれは本気だったのかと驚き、同時に呆れた。
 てっきり、自分を呼び出し捕らえるための嘘だとばかり思っていた。

 好戦的な琥珀色の両眼が、自分と同じ金色の光を帯びて見える。降り注ぐ月光と相まり、なぜかジークを見ていると全身の血が騒ぎ立てるのを感じた。
 変身衝動が、いっそう強くなっていく。
 今すぐ狼に変身し、コイツの望みをかなえてやりたい気さえした。

 ――全力で戦い、牙を剥き、どちらが勝っても構わない。血みどろの殺し合いをしたい。

 そんなバカげた欲求が競りあがるのを、必死で押し殺して訴えた。

「俺は人間として生きたいんだ。頼むから放っておいてくれないか」

 だが、ジークはギルベルトの訴えなど素知らぬ顔で、傍らの天使像についた扉を開き、数個並んだ魔法文字のボタンを押し始める。

「通信遮断に……最大威力結界のパスワードは……と、俺が言うのもなんだが、役人はつくづく身内に甘いよな。
上司の使いだって言えば、一般非公開のパスワードまで簡単に教えちまうんだから」

 扉が閉まると同時に、天使像たちの指先から、薄緑色の光が発射される。結界広場全体を、一瞬でドーム型の魔法結界が覆った。

「これでどれだけ派手に戦っても、音は漏れないし、外からは中も見えない。普通ならコイツを使えば役所に自動で通信がいくが、それも切った。」

 天使像の扉を軽く叩き、ジークは説明する。

「結界の解除パスワードは、俺の上着に入ってる。勝ったら女を連れ帰って、人間のフリを好きなだけ続けろよ」

 退魔士の青年は、とても楽しそうだ。琥珀の目が、いっそう強烈な金色を帯びている。

「なんでだろうなぁ? 写真を見てすぐに、お前が人狼だって感じた。お前の事を考えると、やたらと血がたぎるんだよ」

 ジークが首に下げたゴーグルを目元に引きあげた。

「コイツをかけないとな。俺の武器は、かなり飛び散らかすんだ」

 呟き、黒い大きなケースの留め金を開く。現れたモノを見て、足元のエメリナが大きく目を見開いた。

「な、に、それ……っ!」

「教皇庁の特製武器だ。少しばかり重たいが、ゾンビも骨ごとぶった切れる優れものだぜ?」

 ジークの両手に握られた大降りのチェーンソーが、月光を反射し銀色に輝く。
 スロットルが引かれ、激しいエンジン音が結界内に響いた。


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