時代錯誤の好戦者-3
「はいはい、よく言われるぜ」
布団を剥ぎ取られ、軽く頭を小突かれた。
「……退魔士は、皆の安全を守る立派な人達だと思ってたのに……女の部屋に無断侵入したあげく、縛り上げて脅すなんて、幻滅したわ」
端末を握りながら、ジークを涙目で睨んだ。
「退魔士は皆こうなの?それとも貴方だけ?
中央西区署・第五部隊所属のジーク・エスカランテ一級退魔士さん?」
嫌味ったらしく言ってやると、ジークはむっとしたように眉間へ皺を寄せた。
「うちの隊長なら、死んでもやらないだろうさ。何しろ正義感の塊だ」
大きな手が伸び、ブラウスの襟元を掴まれる。
「だがな、俺は魔獣を殺すために退魔士をやってるだけだ。テメェらの英雄を気取った覚えはねーよ。
都合の良い時だけ勝手に期待してすがるな」
怒気だけで殴りつけられたような気がした。息が止まりそうなほど恐怖がせり上げる。
掴み上げられていた手が唐突に離れ、突き飛ばされた。
咳き込むエメリナを見下ろす両眼が、煮えたぎった怒りを帯びている。握った拳がかすかに震えていた。
だが、彼は苛立たしげに舌打ちし、拳を解いて腕組みをした。
「お前の言い分とやらも、一応聞いてやるよ。言ってみな、極悪ハーフエルフ」
小バカにした調子で促され、むっとしたが、できるだけ冷静に説明する。
「ショベルカーは、私が乗らなくてもドラゴンに壊されていたわ。他の工事車両も全損だったって、ニュースで聞いたもの」
「ふーん。ま、そうかもな」
「それに、私は魔獣を飼ってなんかいない。先生は人狼だけど、普段は人間と変わらないわ。変身したのは、私を助けるためだった」
ギルベルトをペット扱いされたのが悔しくて、怒りに声が震える。
「先生だって、皆が騒ぎ立てるから、仕方なく逃げただけよ。捜査妨害しなかったら、貴方達は先生を捕まえに来たたでしょう?」
「当たり前だろ。なんのために退魔士がいると思ってやがる」
欠片も悪びれない返答が返ってきた。
「っ!だから、それが変じゃない!先生は悪い事なんか何もしてないのに!」
思わず息を切らせるほど怒鳴ってしまい、ハッと青ざめて口を覆う。
「いちいち声がデカイんだよ。聞かれたら困るのはそっちだろ」
ジークは呆れ顔で、やれやれと首をふった。
「とにかく、お前の言い分はわかった。アイツが子どもを助けた話は、俺だって聞いてるよ」
「それじゃ……」
期待しかけたエメリナは、ジークの表情を見てギクリと身を震わせた。
「いやはや……くく。人狼が子どもを助けたか殺したかなんて、どうでもいいんだよ」
退魔士の青年に、酷薄な薄笑いが浮かんでいる。
「……え?」
「お前さ、ゴキブリや蚊を殺すとき、その一匹一匹がどんな性格かなんて、気にするか?
その虫が悪いことしたかどうか、いちいちジャッジすんのかよ」
「そ、それとこれとは……」
「同じだね。俺たち退魔士も、そいつが魔獣だから駆除するだけだ」
非道な宣言に、怒りで目の前が白くなった。
「そんなの酷すぎる!先生は人間と同じよ!」
ベッドから飛び降り、長身の青年へ掴みかかる。
しかし、赤子の手を捻るように、とはまさにこの事だ。エメリナはあっさりと床に組み伏せられた。
凶暴な退魔士の青年は、腹の上に馬乗りになって動きを封じる。
「くうっ!」
「言っただろ。俺のほうが絶対強いって」
悠々とエメリナを押さえつけ、ジークはあざ笑った。一まとめに掴まれた両手は頭上の床に押し付けられ、ビクともしない。