美章園みおは変態な女の子-1
それは学校の帰り道だった。いつもひとりで下校するみおだったが、偶然信号のところで、クラスメイトの女の子と出会ってしまった。
そのクラスメイトとは帰る方向が同じだったし、余り話をしたことはなかったが、一応クラスで一緒ということもあって、無視して行ってしまうわけにもいかなかった。
「あ、うん…。」
信号が青に変わる。ふたりは横に並んで歩き始めた。
まったく会話が弾まない。ふたりの間に気まずい雰囲気が流れが、かといって、帰る方向が一緒だから、ひとりでスタスタとクラスメイトを置いていくわけにも行かない。
しばらく、無理矢理絞り出したような話題で会話をする。みおも苦痛だったが、クラスメイトも苦痛らしい。必死に作り笑いをしている。
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「あッ!」
クラスメイトが急に声を上げた。みおはクラスメイトが向ける視線を辿っていく。
道の向かい側にあるコインパーキングの側溝に一匹の白い猫がいた。死んだ猫だった。みおは駆けだして、道の向かい側にある猫の死体に近づいていった。
クラスメイトも仕方なしといった感じでみおの後ろに付いてきた。
みおは側溝の前にしゃがんで、猫の死体を見つめていた。
クラスメイトは明らかな嫌悪感を示して、『早く行こうよ』とでも言いたげだったが、側溝にある猫の死体を食い入るように見つめるみおを前にして言い出せないまま、しゃがんだみおの脇で突っ立ている。
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猫は車に轢かれたのだろう、目が飛び出し、お腹が破裂して黄色い腸が露わになっていた。
「美章園さん、もう行こうよ?」
我慢仕切れなくなったクラスメイトがみおに言ったが、みおは相変わらず猫の死体を見つめている。クラスメイトは段々と猫の死体への嫌悪感と同じ種類の嫌悪感をみおに感じ始めた。
「あのさ、ほんとに行くよ?」
クラスメイトはもはや苛ついた感情を隠そうとしなかった。クラスメイトは苛ついた感情を言葉に込めて、みおにぶつける。
「あのさ、これ、どう思う?」
みおがようやく口を開いた。しかし、みおの目は猫の死体に向けられたままだった。
「猫の死体よ?多分、車に轢かれちゃったんだろうね。可哀想に…。」
「そうね、とっても可哀想…。」
みおの目は爛々と輝いていた。それは可哀想なモノに向けられる目ではなかった。
クラスメイトは目の前にいる美章園みおにいい知れない奇怪さを感じた。しかし、嫌悪感の交じった怯えを感じながらも、クラスメイトはみおから離れようとはしなかった。
「この猫ちゃんの死体の先になにがあると思う?」
クラスメイトは、はぁ?といった感じで何も答えない。
「あのさ、世界って膜に覆われてると思うの。でね、その世界の膜っていうのは柔らかくて、とても丈夫。なんでも包み込んで離さないの。汚いモノも美しいモノも、美味しいモノも不味くて食べられないモノも、なんでも包んで離さない。でもね、偶然が重なってその膜に傷がつくことがあるの。その傷っていうのがね、この猫ちゃんの死体なの。」
「じゃあ、猫の死体の先にあるっていうのは?」
「うん、世界の外側。私、今、世界の外側を見ているの…。」
オレンジ色の夕日が世界を包んでいた。みおはいつのまにかひとりになっていた。みおは世界が暗闇に包まれるまで、じっと猫の死体を見つめていた。