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人妻苑―ひとづまのその―
【若奥さん 官能小説】

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初―うぶ―-7

「頼みもしないのにトイレットペーパーを三角に折ったのは、奥さんだね?」

「はい、そうですけど……」

「それに、この便座」

 今度は両手でもって便座を撫でまわす。

「さっき確認してみたら、少しだけ汚れていました」

「すみません……」

 恥ずかしそうにうつむく紗耶香を見て、島袋はさらに追い討ちをかける。

 キッチンにて、

「このエプロンには、奥さんの香水の匂いが染み付いてしまっている」

 紗耶香に貸していたエプロンに顔をうずめながら、島袋は迷惑そうに言った。

「気がつかなくて、すみませんでした……」

「湯飲み茶碗にしても、口紅の痕がこんなに残っている」

 島袋がねちねちとした台詞を吐くと、紗耶香はひたすら謝罪をくり返した。
 恥ずかしいやら情けないやらで、島袋にたじたじの紗耶香にできることと言えば、相手の機嫌をうかがうことぐらいしかなかった。

「私を誰だと思っているんだね?」

 島袋に威圧されて、

「自治会長さんです……」

 紗耶香は縮こまっている。

「せっかくマイホームを買ったばかりなのに、奥さんの不注意のせいで、あなたの家そのものが地域から孤立してしまうかもしれないのだよ?」

「私、どうしたらいいのか……」

 島袋の言いがかりからはじまった話が、あれよあれよとスケールが大きくなって、気づけば紗耶香の自由を奪うストーリーにまで発展していた。
 紗耶香はもはや、おじぎ草みたいに立ち尽くしている。

「私の頼みを聞いてくれると言うのなら、今回だけは許してあげてもいい」

「ほんとうですか?」

「男に二言はない」

「私、なんでもやります」

 その口約束がどれだけ危険なものなのか、このときの紗耶香には知る由(よし)もなかった。

「見ての通り、私の利き腕は今、言うことを聞いてくれなくてね」

 情けない顔をつくりながら、島袋はため息をついた。紗耶香も同情の目を包帯に注いでいる。

「少しばかり、トイレを手伝ってくれんかね?」

「えっ?」

 島袋がとんでもないことを言い出したので、紗耶香はしゃっくりのような声を発した。

「なんでもすると、さっき奥さんは言いましたよね?」

 言うと島袋は紗耶香の返事も待たずに、糸を引くような視線を仕舞い、ゆっくりと足をはこぶ。
 そうしてトイレのドアを開けて待っていると、戸惑った様子の紗耶香がやって来た。
 見るごとに色気を増していくその姿に、島袋の全身はこの上ないほどの悦びに躍った。

「はやくしてもらわないと、余計な仕事が増えるだけだよ?」

 たかだか自治会長ごときの地位をもっともらしく振りかざして、島袋は着々と紗耶香の心を操っていく。

「私は小をするときも座ってする人間でね」

「ベルトを……はずせば……いいんですか?」

「頼みます」

 紗耶香はうなずくついでに唾を飲んで、片脚ずつ折り曲げると、床に膝をついた。

 こんなことをしに来たわけじゃないのに──。

 涙が出そうな気持ちをぐっと押し殺して、紗耶香は目の前のベルトを不器用に解いていく。


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