大陸無双の大会社-4
世間は広いようで狭いとは、このことだ。
エメリナが夜毎遊んでいたオンラインゲームで、一番親しくしていた相手が、ウリセスだったなんて。
半年前に誘われたオフ会で、互いに顔をあわせて仰天した。
その後から、いっそう親しくやりとりするようにはなったが、互いに異性としての好みが違いすぎ、完全に恋愛感情抜きの友人だ。
「奇跡の恋愛成就なんだから、大目に見てよ」
ボソボソと小声で訴える。
あのデート以来、何回かギルの家にお泊りしているし、美容にも気をつけようと早寝するから、以前よりもオンラインゲームに興ずる時間が減った。
先週、ウリセスと電脳世界で狩りに行ったのも久しぶりだ。
「はいはい。まぁ、リア充は羨ましいことで」
ウリセスがニヤニヤ笑う。
しかしエメリナの好みでないだけで、彼だって見た目は十分すぎるほど良いし、大企業勤めのエリートだ。
本気で探せば、彼女くらいすぐ出来るだろう。
それに、自分がそうだったから、彼の『リア充羨ましい』も、口先だけだと、なんとなく解る。
ギルベルトはまだドワーフ達に離してもらえそうになかったから、ウリセスと雑談ついでに、写真の一枚も撮れないのだと泣きついた。
「はぁ?恋人なんだから、写真くらい普通に言えばいいじゃないですか」
「そ、そう思うんだけど……ギル先生のスーツ姿を前にすると、激萌えすぎて動悸が……」
写真が手に入れば、あれこれ楽しめるのに……と嘆くと、あからさまに引かれた。
「あいかわらず、そういうとこはキモイ子ですね」
しかしギルベルトが戻ってくると、エメリナの携帯端末をひょいっと奪い取り、二人を並べて、あっさり写真を撮ってくれた。
「うわ、わ、わ!!ありがとう!!!!」
初めて一緒に写った画面の写真を見て、感激に打ち震えながら礼を述べる。
「どういたしまして。幸せのお手伝いは、バーグレイ・カンパニーの社員として当然です」
ウリセスが笑う。
多少口の悪い彼も、ローザ同様に面倒見が良く親切な性分だ。
次の依頼打ち合わせを終え、ウキウキ気分で廊下に出た途端、ギルベルトがくるっと方向を変えた。
「先生?」
長身の青年は、エレベーターとは逆方向にスタスタと歩いていく。
エメリナが声をかけると、肩越しにニヤリと笑ってふりかえった。
「一階ロビーまで競争だ。俺は階段、エメリナくんはエレベーター」
返事もまたず勝手に決めて、ギルベルトは素早く角を曲がって消えてしまった。
「なっ!ずるい!」
エメリナも走らないように必死で急ぎ、閉じかけていたエレベーターへ滑り込んだ。
絶対勝ちだと思ったのに、革張りソファーの並ぶロビーにいくと、ギルベルトはもうとっくについていた。
「早っ!手すりでも滑り降りたんですか?」
「まさか」
息一つ乱していないギルベルトは笑う。
「後で賞品として、さっきの写真を一枚プリントしてくれ」
「え……?」
「俺も、エメリナくんの写真が一枚欲しいと思ってた」
嬉しそうにそう言われ、腰の力が抜けてソファーにへたり込んだ。
「エメリナくんっ!?」
「せ、先生……反則すぎます……」
『幸せと成功を運ぶバーグレイ・カンパニー』のキャッチフレーズは有名だ。
世界大戦の時、この会社の配達員たちは、危険な最前線の兵士たちへ、恋人や家族やからの手紙を、命がけで届けていた。
敵国の一般兵士にさえも、平等にきちんと手紙を届けたので、裏切り者とそしる輩もいた。
それでもどれだけ多くの人々が、国家機密でも戦略重要書類でもない、愛する者からの手紙に救われたことか。
そしてエメリナも本日、この幸福を運ぶ大会社のロビーで、幸せを噛み締めていた。