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異種間交際フィロソフィア
【ファンタジー 官能小説】

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秘密主義者の奇妙な系譜図-1


「えーと……これは二段目で……」

 エメリナはぎっしり詰まった書棚から、本やファイルを一冊ずつ開いては分類していく。

 ギルベルトの家には、とにかく書類が多い。
 階段下の物置きも書庫になっていて、使用頻度が少ないものは、そこに放り込まれていた。

 今週は二日間お休みを貰ったにも関わらず、うじうじ悩んでいた先週より、ずっとエメリナの仕事ははかどっている。
 この半月間のモヤモヤだけでなく、何年も抱えていた心のしこりまで、丸ごとすっきり消えさったおかげだ。
 今月分の事務処理も全て終えてしまい、手持ち無沙汰になったので、書庫の整理をすることにしたのだ。

 ギルベルトが大学時代に書いた論文やノートもあり、時おりまったく関係ないメモ書きなども出てくる。
 それらを分類しながら、彼の学生時代を思い描くのは楽しかった。

 彼はちゃんと人付き合いをするくせに、驚くほど自身について話さない。誰かと楽しく会話をしても、相手を語らせて満足させる聞き上手なのだ。
 案外、聞けば何でもあっさり教えてくれるのかも知れないが、エメリナはどうも躊躇してしまう。

 いつも人当たりの良いギルベルトだが、自身については、どこか見えない壁を作っているように感じるのだ。

 簡単に見えるようでいて、肝心な部分は決して見せない。
 レンジャーの仕事に誰にも同行させないように、触れるなと無言の警告を発されている気分になる。

 こんなメモ書きにもワクワクするのは、ほんの少しだけギルベルトに心を許可されたような……大好きな人に、特別だと選ばれた気がするからだ。


 ファイルの間から、また折りたたまれた紙がパサリと床に落ちた。
 広げて見ると細長い方眼紙で、どうやら簡易的な家系図のようだった。記された多数の人物名が、進化系譜図のように線でつながれている。
 見慣れた読みやすい筆跡は、間違いなくギルベルトのもので、系譜図の一番下の方には、彼の名前も記されていた。

「ルーディ・ラインダースと、フラヴィアーナ・ベラルディ……先生のご先祖さまかぁ」

 系譜図の頂点に記された二つの名を、なんとなく読みあげる。
 横には年代らしい数字が記してあった。
 まだ大陸全土で、大小の国々が剣をふるい戦っていた中世時代。暗黒期と呼ばれる戦乱時代の終焉頃だ。
 その下には次の名が書かれていた。『ロルフ』と『アンジェリーナ』は、彼らの子どもだろう。
 そこから横に伸びた線があり、『ロルフ』は『シャルロッティ・エーベルハルト』と、『アンジェリーナ』は『チェスター・バーグレイ』と結婚したようだ。

「シャルロッティ・エーベルハルト……あの大魔女の!?」

 信じがたい名前に、思わず驚愕の声をあげた。
 強大な魔法をあやつり、錬金術や数々の学問にも精通した彼女は、左右の瞳が氷色と炎色の二色をしていることから、『氷炎の魔女』と呼ばれた伝説の女性錬金術師だ。
 しかし公な出生や経歴記録は何も残っておらず、そのあまりにも突飛すぎる冒険譚や伝説から、今では本当にいたのかさえ疑われている。
 考古学者よりもオカルトマニアに人気の高い、謎に満ちた人物だ。

「ヘぇ〜……」

 単なる同姓同名かもしれないが、彼女がギルベルトの先祖というなら、妙に納得してしまう。
 ギルベルトにしても、機械音痴でさえなければ驚くほど有能な人だ。それに、あれほど器用に魔法を使いこなしながら、魔法学校で学んだこともないらしい。全て両親から習ったそうだ。

(それにバーグレイって……もしかしてバーグレイ・カンパニーと関係あるのかな?)

 何かに憑かれたように、エメリナは家系図に見入っていた。
 どれも名前だけが簡素に記されており、生没年も詳しい人物像も記されてはいない。
 過去におきた世界大戦で、記録があやふやになっているのだろう。途中で途絶えたり、『?』と記されているものもあった。
 そして名前の大半が、赤インクで囲われていた。

 最初、それはラインダース家の直系を示しているのかと思われたが、次第にそうとは限らないとわかった。
 たとえば始祖の『ルーディ』とその子どもたちは印がつき、彼らの結婚相手は誰も囲まれていない。
 しかし、世代を経るうちに、親子兄弟であっても囲まれている者といない者があったりするようになった。
 そして赤で囲まれる率は目に見えて減り続け、ギルベルトの世代には彼を含めてわずか数人だ。

(これ、どういう意味なんだろう?)

 ギルベルトの名前は赤でくっきりと囲まれただけでなく、大きく×印をつけられていた。
 インク染みができるほど強く書かれたそれは、目立たせるというより、まるで塗りつぶしてしまいたいと叫んでいるようにさえ感じた。
 単なる個人的な家系図のはずが、どこかゾクリとした空気をエメリナに伝える。

「――何を熱心に見てるのかと思ったら」

「っ!?」

 突然、背後から伸びた手が、あっさりと家系図を取り上げた。
 全身が総毛だち、エメリナは飛び上がって振り向く。
 書斎で古い石版とにらめっこしていたはずのギルベルトが、いつのまにか後ろに立っていた。



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