週末デートの締めくくり-2
***
――エメリナとイヴァンの苛烈な決戦は、会場をこれ以上ないほど盛り上がらせた。
最後にキツネ少年が獅子王へ必殺技を決めると、割れんばかりの歓声と、盛大な拍手が贈られた。
イヴァンは一瞬、影から憎憎しげにエメリナを睨んだが、すぐに取り繕った笑顔を浮かべ、手を叩く。
その姿はどこから見ても爽やかな好青年だ。
本当に、こういった所は呆れるほど見事で、昔の自分もすっかり騙されていたわけだ。
もう特に憤りも幻滅も感じず、エメリナは軽く会釈して席をたった。
爽快な気分だったし、特に嬉しかったのは、予選で対戦した何人かが、声をかけて祝ってくれたことだ。
彼らもまた、エメリナの初戦敗退を不自然に思ったらしい。
賞品授与や挨拶が一通り終えるまで、ギルベルトはずっと待っていてくれた。
「おめでとう」
夕日に照らされた大好きな人に、思わず飛びついた。
「先生のおかげです!」
ゲームの勝敗や大会の成績よりも、この人が自分を信じてくれたのが、こんなにも嬉しい。
自分が大好きな相手を信じられるようになったのが、幸せで仕方ない。
「俺は別に、何もしてないけどなぁ」
ギルベルトが苦笑する。抱きとめてくれた大きな手で、背中をやさしく撫でられた。
傾き始めた陽の中、会場の撤収作業が始まる。
広場を後にし、並んで遊歩道を歩きながら、ギルベルトを見上げた。
「すっかり待たせちゃったから、今度は先生の行きたい場所、どこでも言ってください」
そろそろ夕食をどこで食べるか考え初めても良い頃だが、実はあまりお腹が空いていない。
お昼ごはんも遅めだったし、元気付けにと、試合の待ち時間に、屋台の軽食をつまんでしまったせいだ。
「そうだな、あまり腹は空いて無いし……」
どうやらギルベルトも同意見らしい。ふと立ち止まり、エメリナをじっと見る。
「……とりあえず、急いでドラッグストアにでも行ったほうがいいか」
「え?」
突然、ひょいと横抱きに抱えあげられた。
(え!?ちょ、それって……もしかして、あれ!?そういうこと……!!??)
パニック気味の頭で、あたふたと考える。
ローザや店員さんから、デートの心得や彼氏の行動パターンを、色々聞いていたが、今日は殆ど生かせていない。
しかも、いきなりこう来るとは思わなかった!!
「あ、あの…先生っ!わざわざ買いに行かなくても……」
両腕をギルベルトの首に回し、真っ赤になった顔を隠して小声で言う。
もう夜も近いし、きっと、そういう事なのだろう……。
「ひ、避妊薬だったら、ちゃんと持ってきましたから……」
「……」
一瞬、ぎしっと効果音が聞こえそうなほど、ギルベルトが硬直したのがわかった。
「いや、そうじゃなくて……」
非常に言い難そうな声色とともに、琥珀の視線がエメリナの足先へ移動する。
「随分と足が痛そうだったから、絆創膏でも買いに行こうかと思ったんだ」
今度はエメリナが硬直する。
――私のバカバカバカああああああーーーーっっー!!!!
「…………すみません。今の、聞かなかったことにしてください」
ギルベルトは横を向いていたが、笑いを堪えきれない様子で肩を震わせている。
「とりあえず座ろうか」
近くのベンチに座り靴を脱ぐと、擦れた部分が真っ赤になっていた。
大会中は、脳内麻薬でも出ていたらしく平気だったが、先ほどからつま先と踵が猛烈に痛くなってきていた。
「えっと……絆創膏も持ってますから、大丈夫です」
ポーチから絆創膏を取り出し、痛んだ部分にペタペタ貼る。見た目はよろしくないが、痛みは随分とマシになった。
それでも今日はもう、あまり長く歩かないほうがいいだろう。
ベンチから立つと、ギルベルトが手を差した。
「じゃあ、最後に一箇所だけ付き合ってくれるかな」
足が辛いようなら、抱っこしようかと言われたが、流石に遠慮した。
いい年して、街中でお姫様だっこは恥ずかしすぎる。