満身創痍の初デート -1
――翌日。
(こ、これで大丈夫かな……?)
駅にむかいながら、エメリナはそわそわと、服の裾を摘む。
白い繊細なレースのワンピースは、ローザの店で買ったものだ。揃いで買った靴はヒールが高く、普段より視界が五センチは高い。亜麻色の髪も今日は降ろし、上品な淡いピンクのリボンカチューシャをつけていた。
こんな装いは、親戚の結婚式以来だろう。
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昨日、ギルベルトと誤解が解けたあと、明日一緒に出かけないかと聞かれた。
十一時に、アパートと職場の中間にある、最寄駅で待ち合わせと決め、スッキリした気分で帰路についた。
(十一時か……じゃぁ、ゆっくり寝てられるなぁ)
ふむふむと、反すうしながら歩く途中、突然気がついて、ピタリと足を止める。仕事のやり取りのノリで、軽く了解してしまったが……
(これって…………デートだよね!?そういうことですよね!!???)
思わずとってかえり、ギルベルトを揺さぶって問い詰めたい心境になった。
――――どうしよう、なんにもわからない!なんにももってない!
なにしろ異性経験は、あの最悪な過去だけ。デートなんかしたことない。
彼氏が欲しいと口で言いつつ、本音はどうでも良かったから、情報も何も仕入れなかった。
エメリナの休日はもっぱら、溜まった家事にネトゲの狩。
たまのお出かけは女友達と遊ぶか、ゲームセンターに行くくらいだ。
そのまま全力疾走で、ローザが勤めている店まで駆けていった。
『本当はこういうの、ダメなんだけど……話はいつも聞かせてもらってるからね』
親切な美人店長さんは、服と靴にバックまで一式を、社員割引きしてくれた。
前々からローザを通して、エメリナの『先生萌え』を聞いていたそうだ。
ついでに髪形やメイクまで、店員たちがこぞってアドバイスをくれた。
あの店の皆様に、頭があがらない。
店員は神さまだった。
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慣れない靴で転ばないように、慎重に歩く。
(き、緊張しすぎない!!普段どおりにすればいい!!)
さすがにレンジャーの仕事へはついていけないが、仕事でギルベルトとちょっと外出するくらいはよくある。
お昼ご飯だって、いつも一緒だ。
ならばデートなど、恐れるに足らず!!遊びに行くか仕事に行くかの違いだけ!!
さぁっ!どこからでもかかってらっしゃい!!
そう考えるとずいぶん気が楽になり、鼻歌でも歌いたい気分で歩く。
今日はいい天気だし、少し風があるから暑すぎもしない。まったく最高のデート日和だ。
……が、ギルベルトの姿を遠くから見つけた途端、途端に動悸が激しくなり、街路樹のオレンジに掴まる。
彼はいつもと同じようにラフな格好で、石像の横に立っていた。
長身の美形青年に、通りかかった女性たちが、こっそりと視線を向けていく。
「ああ、そこにいたのか」
樹の影から亀のように首を伸ばしていたエメリナに、ギルベルトが気づき、歩いてくる。
エメリナの服装を見ると、少し驚いたような顔をした。
「へ、変でしょうか?」
「いや。普段の感じも好きだけど、こっちもよく似合ってる」
ニコリと微笑まれ、鼻血を噴きそうになった。
(ふはぁぁっ!!また先生ってば、百点満点の答えを!!)
くぅっ!と気づかれないように拳を握り締める。
とりあえず出だしは上々。土産話を期待しているローザに、良い報告ができそうだ。