満身創痍の初デート -5
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――会場には女性も多かったが、大会参加者の八割は男性だった。
Eブロックに配置された青年は、ようやく順番を迎え台に座る。対戦台の向こうから、ひょいと輝く亜麻色の髪が突き出た。
「あ?」
顔を覗かせたのは、ハーフエルフの少女だった。エルフ族特有の美しいオーラは感じないが、くりんと丸い瞳や桜色の頬が、なんともいえず愛くるしい。
「宜しくお願いします」
ハーフエルフの少女は、にっこりと挨拶した。
「え?ああ……お願いします」
ぼそぼそと青年は返事をし、顔を引っ込めた。
(多分あれ、ノリで参加したタイプだな。ちょっと遊んでやるか)
キャラクター選択画面で、逞しい黒豹の青年を選ぶ。
現実のスポーツはからきしだが、このゲームで黒豹青年を使えば負けた事は無い。行き着けのゲーセンでは、ちょっとした有名人だ。
一方、ハーフエルフの少女は、可愛らしいキツネ少年を選んだ。
(あー、やっぱなぁ……)
これを選ぶ時点で終わってる。
強烈な必殺技はあるが、複雑な入力が多すぎるし、パワーバランスも悪く使いづらい。このゲームに慣れていれば、まず選ばないキャラだ。
左手をスティックに添え、右手を六つのボタン上へ置いた。
ゲーム画面の中、赤い荒野を舞台に二匹の獣人が向かい合う。
予選は人数が多いので、1ポイント先取した者の勝ちだ。
『go!』の表示と共に、青年は素早く両手を動かした……。
「―――すげぇ!!なんだよあのキツネ使い!!」
数十分後、Eブロック参加者たちの目は、最終試合へ釘付けされていた。
ハーフエルフの少女は、楽しそうに微笑みながら、両手を猛烈なスピードで動かし続ける。
的確にコンボを決め、相手を宙に投げ飛ばし、ガードされる直前コンマ一秒に必殺技を叩き込む。
まるで精密機械のように、無駄な動きが一切ない。
使い辛いと酷評されていたキャラクターの真価を、彼女は信じがたい指さばきで、最大限に開花させていた。
相当の集中力が必要なはずなのに、少女は実に楽しげである。リボンカチューシャで飾った亜麻色の髪が、時々フワリと風になびく。
勝敗がつき、キツネ少年の上へ『win』の文字が出る。
「ありがとうございました」
ペコリと対戦者にお辞儀した少女へ、周囲から割れんばかりの拍手が贈られた。
負けた相手でさえ、額に汗を浮かべつつも、拍手を贈る。
それほどまでに美しく、賞賛に値する戦いだった。
狼執事のコスプレをした係員が、マイクで高らかに宣言した。
「Eブロック、本選出場が決定いたしました!!おめでとうございます!エメリナさん!!」