満身創痍の初デート -3
駅の傍には、大きな公園がある。緑陰爽やかな散歩道や、子ども達の遊具、それに噴水の美しい休憩所など、老若男女のために憩いの場を設けていた。
中央には大きな芝生の広場があり、いつでも何かイベントを開催している。
サーカスの興行やチャリティイベントに、物産展、さまざまなショーや大会などに使用されるのだ。
(だ、だめ……帰りたくないんだけど………………帰りたい……)
公園の静かな散歩道を歩きながら、まだ二時だというのに、エメリナはすでにげっそりとしていた。
散歩道は、色とりどりのレンガで美しい模様を作り出していた。陽射しは随分強くなっていたが、両脇には手入れされた樹木が並び、アーチ状に伸びた枝が心地いい日陰を作っている。
周囲には他に、数組の男女が仲よく手を繋いで歩いていた。
木漏れ日の中、幸せいっぱいで二人の世界を作り上げている彼らに……特に女性の方に、どうしたら自分もそうなれるか、飛びついて極意を聞きたい。
手を繋ぐどころか、ギルベルトから少し離れてぎこちなく歩くのが精一杯。それすら、もうそろそろ限界だ。会話も途切れがちになってきた。
おまけに慣れない靴に、足が悲鳴をあげている。
(こんなんじゃきっと、先生も楽しくないよね……)
のんびりと隣りを歩くギルベルトを、そっと見上げた。頭一つは身長差があるので、首をかなり上向けなくては顔が見えない。
エメリナの視線に気づいたらしく、琥珀色の瞳がこちらを向いた。
「疲れたなら、どこかで座ろうか?」
「はい…………あれ?」
散歩道の向こうから、聞き覚えのある音楽が、かすかに届いてくる。広場で開催されているイベントからのようだ。
「っ!!先生!今日って、6日でしたっけ!?」
「ん?そうだけど……」
「あああっ!大会、今日だった!」
思わず大声をあげてしまい、エメリナは口を押さえる。
「何か大事な用があったのか?」
怪訝そうなギルベルトに、慌てて手をふる。
「い、いえっ、大事ってほどでも……たかが格闘ゲームの大会です!得意なのだし、賞品が豪華だから、たまには出てみようかなーと、思っていただけです……」
慌てふためいているせいで、無駄に詳しく説明してしまう。
「先生のほうが、ずっと大事ですし!それより今日の気まずい雰囲気を、これからどうやって挽回するかに必死で……!」
「ああ、それで妙に無口だったのか……」
小さな溜め息と共に呟かれ、慌ててまた口を押さえた。
「ご、ごめんなさい……」
広場の方角を眺め、ギルベルトが尋ねた。
「まだ間に合うかな?」
「え?申し込みはしてあるし、大丈夫だと……でも……」
「休日まで俺と過ごしてもつまらないのかと、少し不安だった」
犬歯の覗く口元が、優しく笑う。
「君が考古学を好きになってくれて、嬉しかった。だから俺も、エメリナくんの好きなものを知りたい」
頬を軽く撫でられ、きゅうっと心臓が締め付けられる。
この人は、どうしていつもこうなのだろう。魔法のようにエメリナを幸せにしてしまう。
「は……はい!」
「じゃあ、急ごう」
小走りに散歩道を急ぐ。数分前とは嘘のように、心が軽い。足の痛みなど、一瞬で吹き飛んだ。
(せ、先生ってば、もう〜〜〜っ!!!!!!!!)
頭の中は『ギルベルト先生萌え』で祭り状態だったから、いつの間にか、しっかり手をつないで走っていたのに、広場でやっと気がついた。