機械音痴の初メール-2
「そ、それより先生こそ!メールってなんですか?」
ギルベルトの携帯電話は、バーグレイ・カンパニーの知己から、『こっちが不便なんですよ!通話だけでいいから!』と、強引に持たされているものだ。
しかし、普段はほとんど卓上に放っておかれている。
電話中に電源を切ってしまったり、続けてロックをかけてしまうのは、日常茶飯事。メール機能など、知っているかも怪しい。
ギルベルトの携帯には一応、エメリナの番号とアドレスを登録してあるが、電話もメールも、一度もきたことはない。
「ほら、先々週の週末……あんな風に、自分の気持ちを押し付けたのを反省したけど、どうも顔を合わせ辛くてね」
ギルベルトは顔を赤くし、気まずそうに頭をかく。
「なんとか謝りたくて、初めてメールというのを送ってみたんだが……返事がないから、相当に怒らせたんだろうなと」
「あの、先生……」
ゴクリと唾を飲み、言い辛いことを伝える。
「メール……私に届いていませんけど」
「な!?」
ギルベルトが慌ててポケットから取り出した携帯を受け取り、メールの欄を開く。
「……先生、メールの宛て先を決めただけじゃ送れませんよ。送信ボタンを押さないと」
可笑しくて可笑しくて、必死で堪えようとしても笑いがこみ上げてくる。
いつもは携帯など厄介者扱いのギルベルトが、最近やたらと持ち歩いていじっていたのは、来るはずもないメールを待っていたのか。
「……」
そっと送信ボタンを押す。
「そうか、送れていなかったのか……」
ギルベルトが、がっくりとうな垂れる。
「もう送りました。初メール、ありがとうございます」
自然にニヤケてしまいそうになるのを堪えながら、携帯を返した。
隣の部屋で、エメリナの携帯が受信音を奏でる。ギルベルト先生用に設定したクラシックが、ようやく鳴った。
永久保存に決定だ。
『ごういんにしてすまなかつた』
たったこれだけだったが、さぞ苦労しただろう。携帯を前に頭をひねっている姿が、目に浮かぶようだ。
「いや……慣れないことは、するもんじゃないな」
ギルベルトは携帯に顔をしかめ、机にぽんと置く。
「エメリナくんは優しいから、腹を立てていても、我慢して仕事に来てくれてるんだと、思っていた」
「あれは……驚いたけど……怒ってなんか……」
たった数文字の電子文が届かなかったせいで、互いに戦々恐々としていたわけか。
毎日顔を突き合わせていながら……ほんの一言、直接言葉を交わせば、すぐ解決したのに……。
思い返せばこの二週間、エメリナはギクシャクした態度を取り続けていた。怒っていると思われても仕方ないだろう。
ギルベルトは全く気にしていないと思っていたのに、実は多いに気にしていたようだ。
必死でいつもと変わらない様子を保ち、なんとかエメリナがまた普通に接するのを待っていたのか。
いつもだったら、『なんたる可愛さ!!ギルベルト先生萌えぇぇ!!!』と、悶えまくっているところだ。
だが、さすがにそんな気分になれなかった。