後始末-2
「や、やめて―――――!」
恵里香が絶叫した。
「いや、やめない。地獄を見てこい」
「お、お金ね。お金なら幾らでも出すから、やめて下さい」
悦子はいつもの感覚で切り札を出した。
「ほう、お金ねえ。バカにされたもんだ。因みに幾ら出すつもりだ」
「さ、3百万出します。それで許して下さい」
こいつらならばその位だろうと考えながら、悦子は改めて頭を下げた。
「3百万円!それは大金だあ。浩司さん、因みに浩司さんのお父さんの会社は、こいつらのせいで作った借金は幾ら有ったんでしたっけ?」
「実家の借金ですか?そんなに多くないですよ。たった1億5千万円ほどです」
「ほう。たった1億5千万円ほどだそうですよ」
手島は悦子に向き直って軽い感じで言った。
「そ、それも出します」
悦子は手島と浩司の小芝居に我慢が出来ずに、悔しさを滲み出させながら借金の肩代わりを申し出た。
「それに浩司さん、浩司さんの退職金と慰謝料って、普通に考えるとどれくらいになるんですか?」
「いえいえ、私は犯罪者で懲戒解雇ですよ。退職金や慰謝料なんて貰う訳にはいきませんよ」
「まあそうでしょうけど、話のネタに教えて下さい」
「そうですねえ、キリのいい所で1億円くらいじゃないですか?」
「たった1億円ですか?浩司さんは欲が無いですねえ」
「そ、それも出します!」
高い授業料だと思ったが、あんな写真をばら撒かれるよりもましだ。悦子は手切れ金と割り切ることにした。
「ほう、2人の残りの人生が2億5千万円ですか?安い人生ですね」
その言葉に傲慢な女は反応した。
「な、何言ってるのよ、どこの馬の骨かも知らないヤツに犯されて、2億円も払うのよ!ふざけないで!」
「ははははは、本音が出た。お前は本当にわかりやすいな」
手島は楽しそうに笑った。
「うっ、ち、違います、そ、そうじゃありません」
慌てて言ったが、吐いた言葉は戻って来ない。
「もういいや、金なんて要らないよ。お前らに地獄を味わって貰うことにする」
手島が再び携帯電話を操作しだした。
「や、やめてー!お前がバカな事を言うからだろ!謝れ!皆さんに謝れ!」
自分のこれまで築いた人生が滅茶苦茶になる。その人生を崩そうとする女に恵里香は怒りが込み上げてきた。
恵里香は凄い剣幕で母親の髪の毛を鷲掴みにして床に擦りつけた。
「わ、わかりました、わかりました、5億出します、そ、それで許して下さい」
娘に蹂躙された衝撃の余りに、悦子はとんでもない額を口走ってしまった。
さすがにその金額を聞いた恵里香も驚いて手を止めて目を見開いた。
恵里香の手が止まったので、急激に冷静になった悦子は自分の言った言葉に、心の中で舌打ちをした。
しかし、手島はそんなことでは納得しない。
「そんな金は要らないと言ってるだろう!いい加減にわかれよ!」
手島が珍しくブチ切れて怒鳴った。
「じゃ、じゃあ、どうしたら許してくれますか」
恵里香が凄い形相で聞いてきた。恵里香の精神は既に目一杯になっていた。もうそろそろ限界だろう。
その様子をニヤニヤしながら見ていた手島はおもむろに片手を差し出して開いた。
「5百万だ!」
「えっ?ご、5百万…」
悦子も恵里香も一瞬聞き間違えたのかと思った。2人にとってそんな端金で済むならお安いもんだ。
悦子も恵里香も内心で胸を撫で下ろして、そんな額で納得した手島を密かにバカにした。