ゆうこ-2
「それは大丈夫。勃起は自然に治まるし、服はみんなで着せる。プレイヤーの手を借りて何とか連れて帰るの。ただ、この時の記憶は無いみたい。でも初めの頃はこんな状態はそんなに長くは無かった」
「えっ?」
「車両を始めた頃は、直ぐに元に戻ったのに、回数を重ねるごとに時間が掛るようになったの。それに『T』に対する行為もどんどん激しくなってきたわ。多分マスターは…」
陽子は言いかけた言葉を止めて少し遠い目をした。
「多分って?」
また中途半端な状態に置かれた優子は、少し強めに詰問した。
「ん?あっ、それよりも優子ちゃん。優子ちゃんがマスターに声を掛けてみて。優子ちゃんなら若しかしてマスターが反応するかも知れないの」
「えっ、どうしてあたしだと反応するんですか?」
マスターをあれほど想う陽子がダメなのに、自分が出来るのかが疑問だ。
「前回ね。優子ちゃんが降りて電車が動き出してから、マスターが突然楽しそうに笑いだしたの。あんなに楽しそうに笑った顔を久しく見たことなかったわ。『どうしたの?』って聞いたら、『あの子楽しい子だね』って」
「それって…」
ーそれって、あたしが不思議なマスターの心に届くように、ホームから電車に向かって叫んだからじゃ…ー
「それだけじゃないのよ。お楽しみバージョンの車両で、あんなに積極的に楽しんでいたマスターも見たことが無かったの」
「た、楽しんでたって、あたしとのセックスをですか!」
優子は胸がキュンとなった。
「そうよ。いくら魅力的な女が相手でもセックスをしない時も多いのよ」
「えっ、陽子さんが相手でもしないことが有るの?」
優子は驚いた。自分が男なら陽子と絶対にセックスしたいと思うからだ。
「あたしのことはいいのよ。それともう一つ理由が有るけど、今は教えてあげない」
「またあ?それッばっかりじゃないですか。イジワルばっかり!」
「だって、大好きなマスターを優子ちゃんに譲るのよ。ちょっとくらいイジワルしてもいいでしょ」
明るく冗談のように言った陽子だったが、その目に浮かぶ寂しげな色がその言葉が本心だと物語っていた。
「えっ…」
いつも魅力的で密かに憧れていた陽子が自分に嫉妬している。それを感じた優子は戸惑ってしまった。
「マスターを慰めてくれたら教えてあげるわよ。ほら、時間も無いし早くしなさい」
「あっ、はい!」
前振りも無いまま、陽子がいつもの高飛車な態度に戻ったので、優子はついつい条件反射的に返事をした。
「さあ、スタート!」
追いうちを掛けるように、陽子はパンと手を打って合図をした。
「え、え〜と、ど、どうしたら…」
いざ、マスターを前にして、優子はどうしたらいいかわからなかった。
「さあ?何が正解かわからない。その結果どうなるかもね。でも、結果はどうあれ優子ちゃんの方法で気持ちを込めて慰めて欲しいの。わかった?」
戸惑う優子に自分の気持ちを込めろと陽子は優しく諭した。
「は、はい…」
すっかりいつもの陽子のペースになった。しかし、優子にはこれの方がしっくりとくる。
改めてマスターに向き直った。
―気持ちを込めて―
優子の気持ちはマスターに恋心を抱いている。そんな男が目の前で苦しんでいるのだ。優子は気持ちのままにマスターの顔にそっと手を伸ばして、さっき陽子がやっていたように優しく頬を撫でだした。
「マスター、優子です」
耳元で優しく声を掛けても、優子にはマスターの様子の変化は感じられなかった。
―もっと気持ちを込めないと―
「そうだ、陽子さん、マスターの名前を教えて貰えます」