Purple memory-8
―――ポツ・・・ポツ・・・・・
―――サァァァァ・・・・
タクシーが丁度島のヨットハーバーの入り口を指呼の間に捉えた時、
フロントガラスに雨粒が音をたててぶつかりはじめ、次の瞬間には車の照明越しにも分かる。
その時ジェクトの傍らで、ずっと沈黙を守っていたルールーが口を開いた。
「・・・運転手さん、このままヨットハーバーの中に入ってください」
「 !!? ルールー、良いのか?」
「・・・このヨットハーバーに私が持っている大型ヨットが繋いであるのよ。
雨も降ってきたし、一休みするにはちょうどいいわ」
「そう言えば、以前そんなこと言っていたな・・・・運転手さん、そう言うわけで目的地変更だ」
タクシーがヨットハーバーの中に入っていく中、
ジェクトは自分に密着しているルールーの存在を否応なく意識してしまっていた。
自分より年下の筈なのだが、出逢った時から終始大人の女の魅力を振り撒き続けた女。
今彼の左頬には彼女の後頭部で纏められた黒髪が微かに触れ、鼻孔を今まで嗅いだことのないような香りが擽る。
左腕には服越しに彼女の豊かな肉感が伝わってくる。
ルールー自身の目的地変更も相まって、
不覚にもジェクトは傍らの女が“後輩の彼女”であることを忘れそうになった。
「ここでいいわ・・・・」
ある程度進んだところでルールーが声をかけ、タクシーは漸く停止する。
ジェクトは手早く2人分の料金を支払うと、
ルールーを引っ張り出すようにして車外に出た。
2人の身体に既に霧雨になった雨が降り注いできた。
―――バタンッ・・・・
―――ブルルル・・・・・
2人を下ろしたタクシーがその場を離れ、
波止場に備え付けた外灯の光の届かぬ闇の中に走り去った時、
ジェクトの足元に座り込んでいたルールーが突然跳ね上がるようにして岸壁に走り寄った。