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『graduation』
【青春 恋愛小説】

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『graduation〜ウェディング〜』-2

研究室の扉を閉め、並んでエレベーターに乗る。
扉が閉まった途端、

「痛ッ」

足をハイヒールで軽く踏まれた。

「てめぇ、5年振りの挨拶がそれかよ、雪見!」

彼女はニヤリと笑った。

「馬鹿ね。5年振りだからワザワザそんなご挨拶なのよ。」

5年前と変らぬ人を食ったような笑顔。さっきの営業スマイルとは雲泥の差。けど、こっちの笑顔の方がずっといい。

「お茶する時間くらいないわけ?」

5年振りの旧友との再会に浮き立つ俺に

「無理。さっきの教授との会話、何聞いてたの?」

冷たい反応。

じゃあ携帯の番号教えて、というのもためらわれて俺は下を向いた。
そんな俺を哀れに思ったのか雪見はちょっと考えたように目を泳がせてから口を開いた。

「来月も15日、原稿もらいにまたここ来るから。」
「マジで!?」
「うん。ってか佐伯。27歳にもなって『マジで!?』はやめて。」
「じゃあその時、飲みに行こう。」

冷静な雪見に対して、できるだけ屈託なく言った。むしろ幼く見えるくらいに。

「分かった。調整してくる。」

雪見はそう言って歩き出すと、後ろ手で小さく手を振った。
昔からのクセ。やっぱり変らない。



真田雪見は大学時代の同級生だ。
第二外国語のドイツ語のクラスで一緒になって、気が付いたらサークルも一緒だった。

最も仲の良い女友達の1人だと思っていたが、そう思っていたのは自分だけだと思い知らされたことが2回ある。

1回は卒業してからすぐ、サークルの同期会の連絡をしようと思って電話したら
「この電話は現在使われておりません」
という機械音が流れてきた時。
この時、サークルの奴等全員が、雪見の新しいアドレスを知らなかった。

ドイツ語のクラスで一緒だった雪見の親友沙百合に慌てて連絡をとると最初、「知らない」とそっけなく言われた。

「知らないってオカシイだろ?沙百合、雪見とメチャ仲良かったじゃん。それで知らないって何!?あいつ自殺でもするつもりかよ。」

しつこく追及してしぶしぶ真実を吐かせた。

「サークルの人には連絡先、決して教えないでくれって言われてる。何かサークルで嫌なことがあって、サークルの人とは全て縁を切りたいんだって。何があったかは話してくれないけどさ、あのコ、秘密主義だから。」

沙百合は不満そうに言うと

「だから連絡先は教えられない。他のサークルの人には、私も知らなかったって言っといて。」

冷たく電話を切った。


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