『graduation〜ウェディング〜』-12
※
「……今度さ、都築に会いに行こうか。
佐伯と一緒ならできる気がするんだ。記憶の上書き。」
夢か現つか、物語のように雪見の声が聞こえた。
場所は漫画喫茶。
あれから俺たちは漫画喫茶に行っのだった。
27歳にもなって好きな女目の前にしてホテルにも行かず、漫画喫茶で夜を明かした自分の間抜けさと、忍耐強さに拍手したくなった。
俺はぼーっと都築が雪見を選ばなかった理由を考えていた。
昔から都築は結婚に嫌なくらい重点をおいていたっけ。
まぁこんな安定していない女は、結婚向きではないかもな。
wedding――結婚、誓約する、異質なものの融合……
確かに奴らは似すぎていて異質とは言えない――
起きると結構いい時間で、家に帰る時間はなさそうだった。まぁそんなこともあるだろうかと、飛行機のチケット等、用意は完璧にしてきていた。
「羽田まで送るよ。」
雪見は化粧室から出てくると、綺麗に顔がなおっていた。女って化け物だ。
新宿から羽田空港まで直通のリムジンバスに乗ると雪見は無言で眠りについた。
俺はこのまま雪見と2度と会えないという事態をどうにか回避したかった。
とりあえず雪見が起きたら携帯の番号を聞こうと思い
「ケイバンオシエテクレ、ケイバンオシエテクレ」
と唱えながら眠りについた。
羽田に着くと雪見はすぐ「気持ち悪い」と呟き、トイレに駆け込んだ。
戻ってきた時にはもう搭乗時間ギリギリ。
「ごめん。」
申し訳なさそうに謝る彼女。つけこんで携帯番号を聞いてやれ、と口を開いた。
「ケッコンシテクレ」
......。
言ったあと「?」と思った。
何か、言うべきことを間違えた気がする......。
目の前の雪見も呆然としている。
(うわっ。主要なとこは「ケ」しか合ってないじゃねえかよ。あぁ一昨日の結婚式見て俺もそろそろケッコンしたいって思ったのバレバレじゃねぇか。)
自分で突っ込みながら、どう訂正していいのか分からず、口をつぐんだ。さすがの雪見も対処しきれないようで、目を白黒させている。そりゃそうだよな。
「じゅ順番が...間違ってない?」
やっと何か言ったと思ったら、今まで散々無視してきただろう「順番」なんて言葉を持ち出してきやがった。
「いや、間違ってない。」
俺はもう居直って、言い切った。