平凡容姿のハーフエルフ-1
――それは半月前の金曜日。
仕事を終えたエメリナは、久しぶりに親友のローザと食事をしていた。
休日前夜の繁華街は、いつにもまして賑やかだ。
目当ての魔法料理店も満席で、前々から予約してなければ、とても座れなかっただろう。
魔法灯火などのインテリアが落ち着ける、雰囲気のよい店だった。
店員達はジョッキや皿を持ち、せわしなく駆け回っている。
王都では近頃、魔法で有名なロクサリス国の料理が大人気だ。
薬草や養殖魔獣を使った料理は、この国ではまだまだ珍しい。
特に食用開発されたスライムは、コラーゲンたっぷりで美肌効果があると、もてはやされていた。
席に案内され、料理と酒を注文する。
「それで、店長ったらね〜……」
薬草サラダや食用スライム鍋、養殖ドラゴンのステーキなど、珍しい食材を楽しみながら、互いに近況を話し合う。
ローザはファッションブランドの店員だ。
長い赤毛を金髪に染め、入念にセットしている。いつもながら化粧も完璧で、最新流行のコーディネートに、十センチはあるピンヒール。
カジュアルな服装で化粧も殆どしていないエメリナとは、とことん対照的だ。
しかし、幼稚園からずっと一緒の大親友である。王都で就職して一人暮らしという夢まで一緒に叶った時は、互いに奇跡だと喜びまわった。
お互い、慣れない一人暮らしに四苦八苦しながら、時々こうやって会い、おしゃべりを楽しみながら励ましあうのだ。
「うんうん……」
ローザの話に相槌を打ちながら、エメリナも近況を話す。
職場について話す内容は、もっぱら『ギルベルト先生がいかに萌えるか』だ。
「エメリナは本当に、ギル先生が大好きだねー」
ビールジョッキを空にしたローザが、口紅を紙ナプキンで拭う。
「んで、いつ告るの?」
「げはっ!!??」
唐突な質問に、エメリナは派手にむせ返った。
童顔でも、エメリナはちゃんとお酒が許される歳だ。免許証さえ忘れず持参すれば、店員は軽く驚きながらも素直に酒を出してくれる。
「きゃっ!ちょ、大丈夫!?」
「ご、ごめ……けほっ……」
飛び散ったビールを拭き、咳き込みが納まった後で、ようやく答えた。
「そんな予定はなし」
「えー?ルックス・性格・収入良しで、機械音痴以外はオールマイティーさんでしょ?」
「うん。おまけに先生、料理も私より得意だしね」
職場のお昼ご飯は、大抵いつもギルベルトが作ってくれるが、とても美味しい。
これをローザに話した時は、
『上司が部下にごはん作ってあげるの!?普通逆でしょ!?』と、つっ込まれたが、なにしろあそこのキッチンが問題だ。
電子レンジも保温ポットもなく、旧式のかまどだけなのだから、仕方ない。
エメリナも魔法はそこそこ使えるが、なにしろ電気の調理器具は、便利でお手軽なので、すっかりそちらに慣れている。
あんな骨董品をつかいこなせるのは、ギルベルトくらいだ。
「そんなのがフリーなのは奇跡だって!早く取っておかないと!彼氏欲しいって言ってたじゃん」
美味しそうなソーセージに勢いよくフォークを突き刺し、エメリナは首を振る。
「欲しいけど、先生はだーめ。優良物件すぎて、私にはもったいない」
「なにそれ?もっと自信もちなよ」
「だいたい、告白して断られたら?あんな二人きりの職場で、その後気まずいじゃない」
「話聞いてると、十分脈はありそうな気がするんだけどなぁ」
「ギル先生は、誰にでも愛想いいの。私だけ特別ってわけじゃないよ。それにね……」
つい、小さな溜め息が零れた。
「うっかり舞い上がって、イケメンにヤリ捨てられるのは、もう二度と御免」
テーブルの向かいで、ローザがあんぐりと口をあけている。
「……あたしさぁ、その地雷は踏まないように、気を使ってたのに」
「ありがと」
親友に微笑む。
派手な外見から軽薄に見られがちな彼女だが、こういう所はエメリナよりずっと繊細だ
「もちろん今でも腹は立つけど……高い授業料を払って、人生勉強したのよ」