平凡容姿のハーフエルフ-6
翌朝、エメリナが目を覚ました時、ギルベルトに姿は無かった。
全裸だったし、二の腕やわき腹にはくっきりと情事の痕が刻まれていたから、夢ではないだろう。
身体は簡単に拭われていたようで、それほどベタつきはなかった。
掛けられていたタオルケットを巻きつけ、そろそろと起き上がる。
用心深く扉を開けたが、階下も静まり返っていた。
一まとめにされていた自分の衣類を大急ぎで身につけ、勇気を出して階段を降りる。
やはりギルベルトはおらず、エメリナが使っている机に、落とした鍵が乗せてあった。
鍵を掴んで外に飛び出し、アパートへ走って帰った。
(バカみたい!!なにやってるのよ、私……!!)
偉そうに親友へ宣言した数時間後に、同じ過ちを繰り返したわけだ。
ローザへ相談したものか、携帯を握ったまま土・日を悶々と過ごし、結局誰にも言えないまま月曜の朝を迎えた。
「はぁ……」
溜め息をつき、とぼとぼと通いなれた石畳の道を歩く。
ギルベルトの家に行くのが、こんなに憂鬱だったのは初めてだ。扉をあけるのに、玄関の前で何度も深呼吸をしなくてはならない始末だった。
「お、おはようございます……」
おそるおそる顔を突き出すと、古書を山と抱えたギルベルトがこちらを向いた。
「ああ、おはよう。エメリナくん」
いつもとまったく変わらない調子で挨拶され、拍子抜けする。
琥珀色の瞳からは、あの凶暴な色が嘘だったように抜け、ニコニコと穏やかに笑っていた。
***
それから二週間。
あいかわらず、ギルベルトは以前とまったく変わらないし、あの夜の事を触れようともしない。
非常にすっきりしない、じれじれと生殺しの気分だ。
しかしまさか、『私を抱いた感想はどうでしたか?』なんて聞くわけにも行かない。
(先生……無かった事にしたいのかな?)
あの時のギルベルトは、どう考えても様子が変だった。
酒の匂いはしなかったけど、ひょっとしたら酔っていたエメリナが気付かなかっただけで、ギルベルトも飲んでいたのかもしれない。
失敗したと後悔しているのだろうか……?
(はぁー……ま、しかたない。あの時、ニンニクは食べてなくて良かった〜)
考え続けると際限なく落ち込んでしまいそうなので、アホらしいプラス思考に切り替える。
(さ、お仕事お仕事!)
論文の打ち込みを再開する。
別に初めてでもないし、避妊もしっかりしてくれた。
それに、どう思い返してもあれは和姦に入るだろう。
今の労働条件は申し分ないし、一夜の過ちなんて、今時珍しくもなんともない。
すっきりしない灰色決着でも良いじゃないか。
世の中、はっきり白黒つけないほうが幸せな事の方が多いのだ。