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果葬 ―かそう―
【その他 官能小説】

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―15―-8

 このままでは彼女はほんとうに果ててしまう。そこで北条はこう言った。

「香澄さん、あなたにとってもっとも残酷な事実を、僕の口から言わなければならないようですね」

 途端に香澄の動きが大人しくなる。刑事が告げようとしている次の台詞を待っているのだ。

「あなたはすでに子宮を失っている。違いますか?」

 香澄はどうすることもできなくなった。
 北条の視線を浴びるほどに、自分の振る舞いが惨めに思えてくる。

 それはむしろ、痛いところを突かれたというより、もうこれ以上自分を偽らなくてもいいという慰めの言葉にも聞こえた。

 じわりじわりと込み上げてくる感情が、たちまち香澄の目頭を熱くさせる。
 そして下半身に挟まっている物が抜け落ちると、そのままの体を椅子に沈ませた。

「あなたは子宮を全摘出する大手術を経験した。そうなってしまったのは、他でもない父親から受けた暴行が原因だった。損傷したままの子宮を放置すれば、今度はあなた自身の命に関わる恐れがあった。つまり、あなたに選択の余地はなかったのです。そしてその手術を執刀したのが、木崎ウィメンズクリニックの木崎智也(きさきともや)という医師だった」

 ぐったりとうなだれ、剥き出しの脚を内股にたたんでいる香澄を見て、北条なりにやさしくしゃべった。

「手術自体は別の大学病院で行われ、無事に終わった。しかし木崎智也は、手術のあとにある物をクリニックに持ち帰っています」

 数秒間の沈黙があって、

「それは、摘出したあなたの子宮です」

 北条の言葉が香澄の胸に鋭く突き刺さった。

「もちろんこれは違法にあたります。ですが、それを望んだのは香澄さん自身だ。そうしてかけがえのないものを失ったショックから、あなたは恐ろしい行動に出たのです」

 北条がキッチンの方向を指差す。

「もし、あなたの体の一部があの冷蔵庫の冷凍室に眠っているのだとしたら、あなたはある意味、魔女よりも恐ろしい人だ」

 相手の心に響くように言ったはずなのに、目の前の香澄からは感情の起伏が消えていた。
 ただ涙を流すだけの、表情のない人形のようにも見える。

 北条はそこに直った。

「木崎智也の存在を我々に知らせてくれたのも沢田透でした。沢田が亡くなった直後、警察宛てに一枚のDVDが届きました。おさめられた映像の中に、青峰由香里や月島才子を凌辱する木崎智也の姿がありました。あなたの手術に携わっていた医師は、そうとう歪んだ性癖の持ち主なのでしょう。だからこそあたが子宮を要求した時には、快く引き受けたんだと思います。そうしてある時、自宅の冷凍室に保管してあった子宮を、夫である花井孝生に見られてしまった。これは何だと、しつこく問い詰められたことでしょう。僕はご主人に同情します。小さなクーラーボックスの中から出てきたのが、グロテスクな朱色をした肉片だったんですからね。それが食用の精肉だったなら話は変わってきますが、まさか人間の臓器だとはご主人も信じなかったでしょう」

 さすがの北条も、今度ばかりは事実を述べているという感覚がしなかった。


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