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「じつは、ある犯罪組織のメンバー数名でサイトの管理をしていたわけなんですが、そのうちの一人は大上次郎という男で、もう一人が沢田透だと判明しました」
まさか、という台詞を香澄は呑み込んだ。
「それじゃあ、沢田さんが彼女たちをおそったんですか?」
「そうではありません。彼らはただの仲介役です。青峰由香里と月島才子を客へ引き渡し、そこから先は客の意思に委ねるわけですから、レイプの実行犯は客の男ということになります」
それを聞いて香澄は少しだけ気をゆるめた。
それはつまり、さっきまで気が張り詰めていたということだ。
沢田透のことを思うと、時々こういうことが起こる。
たとえ犯罪組織のにんげんだろうが、彼の本質は別のところにあるのだと、香澄はそう思えてならなかった。
「失礼なことをうかがいますが──」
北条はまず前置きした。
「香澄さん、あなたは、父親にまつわる暗い過去を持っていますね?」
ついに来たか、と香澄は体を萎縮させた。
「我々は『聖フローラル学園』という児童養護施設を訪ねました。あなたが幼少の頃にあずけられていた場所です。残念ながら当時の園長はすでに亡くなられていましたが、園長からあなたの話を聞いていたという女性職員に会えました。そこで初めて知ったのです。あなたが実の父親から性的暴行を受けていたということを」
聞き手としても、話し手としても、もっともつらい状況に直面していた。
「さらにその時の行為が原因で、あなたの腹部には醜い痣が残ってしまった」
北条の視線が気になり、香澄は自分のお腹に手を添えた。
「ところがここでもう一つ、新たな事実が浮上してきたのです。あなたは周囲に、早い時期に両親を亡くしていると言っていた。しかし施設の職員は、父親はともかく、母親は健在だと明言した。その証拠に、あなたの母親からは毎年のように寄付金が届いていると言って、その封書を我々に見せてくれました。これについてあなたから言えることがあれば、是非とも聞かせて欲しいですね」
香澄は無言のままでいたが、俯いた睫毛がかすかに震えていた。まさしく喪中の未亡人の姿だった。
「父親は行方不明で、母親は生きている。これを踏まえた上で、我々はもう一度今回の事件を振り返ってみました。ここでふたたび登場するのが、沢田透です」
瞬間、香澄の表情が悩ましく歪む。
その名を耳にするだけで、全身がかっと熱くなるのだ。
「あなたは、沢田透が刑事であると疑わないまま、彼を自宅に招き入れ、ついにはその肌さえも露出した。もちろん性交を果たすためにです。しかし彼はそれを辞退した。家族のある身ならそれが当然と言えるでしょう。それでもあなたは退かなかった。インターネットの通信販売でアダルトグッズを購入していることを告白し、実物を彼の目に触れさせた。淫らな女だと印象づけるためにです。ほんとうのあなたは、そこまで貧しい心の持ち主ではないと我々は信じています」
北条はこの時、脇の下にじんわりと湿気を感じていた。
追い詰められていたはずの美しい容疑者が、挑むような目でこちらを見ていたからだ。