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指紋やＤＮＡを採取されたあと、沢田透は殺風景な部屋の中で取り調べを受けていた。
ここ数日のあいだに、こうやって心を入れ替える気になれたのも、失いたくないものができたからだろうと考えた。
自分はもうすぐ父親になるのだ。
今日という日が更生への第一歩になるのなら、あるいは愛する者たちの平穏な暮らしが約束されるのなら、どんな罰でも受けようと覚悟した。
誤算があったのだとしたら、それは、ある人物と出会ってしまったことに他ならないのだが。
「大上次郎の携帯電話に匿名のタレコミがあり、刑事を装ってその雀荘へ乗り込んでみたところ、そこに青峰由香里がいたと、つまりこういうことか？」
五十嵐に睨みつけられたので、沢田はふてぶてしくうなずいた。
無造作に生やした顎髭が、せっかくの甘い人相を悪く見せている。
「電話の相手に心当たりはないのか？」
「ありません」
「その人物はどうやって大上次郎の番号を調べたんだ？」
「知りません」
「じゃあどうして彼女を狙ったんだ？」
「依頼されたんです」
「誰に？」
「その時の電話の相手にです」
五十嵐はここで小休止した。重要なポイントだと察知したからだ。
「組織のにんげんから指示されたわけじゃないんだな？」
「通常なら、上からの指示があって俺らは動くことになっている。だけどあの時は違った。それからこれはあとで知った話なんだが、あの青峰由香里っていう女、ある男と深い繋がりがあったわけなんだよね」
そうやってもったいぶる沢田の思惑にはまらぬよう、五十嵐は相手の目を注意深くのぞいた。
「じつは彼女、神楽町の通り魔事件で刺された花井孝生って男と、どうも不倫の仲にあったみたいなんだ」
それは五十嵐の耳にも入っていない情報だった。
もしそうだとすれば花井氏の妻である香澄が、夫と青峰由香里が密かに会っていることを知り、その不倫相手をレイプするよう大上次郎に依頼したということになり、筋も通る。
先の保険金のことも考慮すれば、花井香澄には夫殺しの動機がじゅうぶんあるように思える。
しかし、と五十嵐は思う。果たして花井香澄がそこまで思い詰めていたのかどうかとなると、首をかしげなくてはならないのだ。
「青峰由香里を拉致したあと、彼女の身柄はどうなったんだ？」
五十嵐の追及がつづく。
「いくつかの風俗店が窓口になっていてね、さらった女の子はとりあえずそこへ監禁しておくわけさ。客は自分の気に入った女の子を金で買い、あとは好きなように楽しむ。そういうシステムになっているんだ。女なんて所詮、金の生（な）る木さ。いいや、金の湧き出る泉かもな」