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果葬 ―かそう―
【その他 官能小説】

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―12―-2

 造作もなく沢田が言うもんだから、五十嵐はつい冷静さを欠き、憤慨を露わにしようと出た。

「沢田、貴様、自分が何をしたのかわかって──」

 その時、ずどん、という物音とともに、目の前のデスクに何者かの拳が打ちつけられているのが見えて、その衝撃でデスクの一部が沈んだ。

 驚いた沢田は思わず上体を仰け反らせ、拳の持ち主のほうへ目をやった。そこには北条がいた。

 動物的な鋭い眼光を放つ、相手の心を読み取らんとするその眼差しに射抜かれ、沢田は口のはじを引きつらせた。

「君は、そんなことを言うために自ら出頭してきたのか?そうじゃないだろう。ある人物と出会ったことで、君の中の何かが狂いはじめた。そして相手の本質を知れば知るほど、その人物にのめり込んでいく自分を感じた。品定めをし、クライアントに引き渡さなくてはいけない『商品』だとわかっていながら、君自身の生んだ独占欲はもはや手に負えないほど大きくふくらんでいた。しかし君は知ることになる、彼女がある事件の容疑者にされようとしていることを。そこで君は悩み考えた。自分の知り得た情報を警察に提供することで、捜査の針路を彼女以外に向けることはできないだろうか、とね。そうすることによって彼女に貸しをつくり、沢田透という男の印象をより強いものにしようとした。違うか?」

 できるだけ感情的にならぬよう、北条は語気をゆるめて言った。

 沢田はすぐには反応できないでいた。
 五十嵐とのやり取りのあいだには一言も口を挟もうとしなかった北条という刑事が、この場面ではじつになめらかに、そして被疑者の内心を見透かしたような態度で責めてきたからだ。

 北条の言う通りだった。初めて花井香澄という女性を目にした時から、自分は彼女に惹かれていた。
 そしてあの喫茶店で香澄との再会を果たした瞬間、もやもやしていた気持ちは確信に変わり、持て余した。

「俺、いつか香澄さんから告白されたことがあるんです」

 あきらめに似たものを口元に浮かべて、初恋を語る時の面持ちで沢田はしゃべり出した。

「上層部のにんげんからの指示で、花井香澄という女性の査定を任された俺は、彼女と対面した途端に鉄の仮面を剥がされました。わかりやすく言うと、彼女のことを好きになってしまったんです。柄にもなく相手の女性を意識すると、緊張して、あっという間に彼女の中に取り込まれた。主導権を奪い合うような駆け引きをする気にもならなかった。人間としての魅力に欠ける自分と、先天的に魔性の部分を持って生まれた彼女とでは、そういう対象にすらならないと思い知ったんです。そしてその日の別れ際に、俺は彼女の口からとても残酷な事実を聞かされました。それは彼女がまだ小学生だった頃に、実の父親から性的暴行をくり返し受けていたというものでした。俺、もう、どうしたらいいのか、わかんなくて、だから……」

 沢田は言葉を詰まらせた。そして体力を消耗したように肩を落とし、うなだれたかと思えば、また勝手に話し出す。


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